レオンカヴァルロ「衣装をつけろ」|ららら♪クラシック

派手なメイクと衣装、おどけた仕草で私たちを笑わせてくれる道化師ですが、実は悲しい感情をひめているとも言われます。

 

そんな道化師の複雑な心情を歌った曲が「衣装をつけろ」です。イタリアのの作曲家レオンカヴァルロを一躍有名にした曲で、数あるテノールの歌の中でも傑作中の傑作です。

 

ルッジェーロ・レオンカヴァッロ

 

男はつらいよ

「衣装をつけろ」は歌劇「道化師」の最高の見せ場で歌われます。作詞作曲をしたのはイタリアの作曲家レオンカヴァルロ。歌劇「道化師」は彼のオペラデビュー作です。

 

19世紀のイタリアでは、ヴェリズモ・オペラと呼ばれるオペラが話題となっていました。ヴェリズモとは現実主義のことで、日常生活で起こる生々しい出来事が描かれた1時間程度の短いオペラです。生々しい出来事とは男女の愛憎劇。愛が憎しみに変わり殺人にいたるという庶民がまき起こす悲劇がリアルに描かれています。

 

歌劇「道化師」も旅まわりの一座に起きた悲劇です。主な登場人物は、座長のカニオとその妻ネッダ。そして、ネッダの浮気相手の若い愛人です。

 

第1幕では、ある街に道化芝居を見せてまわる一座がやってきます。そこで妻の裏切りを知ったカニオは浮気相手の名前を言えとネッダを問い詰めますが、ネッダは口を割りません。絶望に打ちひしがれるカニオは、そんな時でも客を笑わせるために道化師を演じなければならないのです。舞台に上がる前カニオが歌うのが「衣装をつけろ」です。己の身のつらさを嘆き、ついには男泣きに崩れるのです。

 

続く第2幕では、一座の芝居が始まりカニオは道化師を演じます。芝居の内容はネッダが演じる道化師の妻が浮気をする物語。浮気相手の名前を言えとつめよる道化師役のカニオが、次第に現実と重なり始めます。ついに、芝居と現実の区別がつかなくなりカニオはネッダを殺してしまうのです。

 

夢みるばかりじゃいられない

イタリアのナポリに生まれたレオンカヴァルロは、音楽と文学を学び台本も書き作曲もするオペラ作家を目指していました。そんなレオンカヴァルロの憧れの存在はワーグナー。ドイツ・ロマン派の巨匠です。ワーグナーは神々の世界など壮大なロマンをドラマティックに描き、上演に4日間もかかるような巨大なオペラで独自の世界を作り上げていました。

 

学生時代にワーグナーの作品に出会ったレオンカヴァルロは、スケールの大きなオペラを作るぞと創作意欲に燃えました。そして「ルネサンス三部作~たそがれ~」と銘打った大作にとりかかりました。しかし、無名の新人作曲家がかくオペラの大作には誰も見向きはしませんでした。

 

それでも大作を作るという夢は捨てられなかったレオンカヴァルロ。作品は認められないまま時は過ぎ、34歳となっていました。

 

そんな時、自分より無名の年下の作曲家が一夜にして大スターとなるのを目の当たりに。マスカーニが歌劇「カヴァレリア・ルスティカーナ」を大ヒットさせたのです。その内容は男女の愛のもつれから殺人にいたる物語。まさにヴェリズモ・オペラでした。そこには壮大なロマンも美しい愛もありません。

 

このとき、レオンカヴァルロは気づいたのです。夢見るばかりではいられないと。そう思って周りを見渡してみると日常にはいろんな事件がいっぱい。それらがオペラの題材として魅力的に輝き始めたのです。

 

そして初めてとりくんだヴェリズモ・オペラ「道化師」を半年もかけずに一気に書き上げました。

 

レオンカヴァルロの才能を認めていた人たちは、歌劇「道化師」の上演にむけて動き出しました。人気歌手のヴィクトール・モレルは自分が出演してあげようと言い、さらに伝説の指揮者トスカニーニが指揮をすることになったのです。

 

こうして初演をむかえた歌劇「道化師」は大成功。夢見るだけでなく現実を描き現実を生きたレオンカヴァルロはついに名声を手に入れたのです。

 

「ららら♪クラシック」
道化師が歌う男の悲哀
~レオンカヴァルロの「衣装をつけろ」~

この記事のコメント