スパース(sparse)とは英語で「まばら」「スカスカ」「少ない」などの意味があります。スパースモデリングとは、少ない情報で正解にたどり着く数学的手法のことです。
スパースモデリングが医療の現場で活躍
MRIは体の断面が見られる優れた医療機器ですが、狭い筒の中で長時間じっとしている必要があり患者の負担が大きいのが難点です。
そこで、その検査時間を格段に短くする研究が行われています。通常、脳のMRI撮影には約9分かかります。ところが、スパースモデリングを使うと2分43秒で終わるというのです。
MRIは強い磁場を作ることで体内に存在する水素の動きを測定します。そのデータをもとに体内の様子をコンピューター上に映像として再現。そのさい、これまでは測定できる空間から隙間なくデータを集めていました。正確な反面、背景のデータなど不必要な情報も集めざるおえませんでした。
そこで時間短縮のための大胆な方法を試しました。まず、データの測定範囲を放射状にまびいてみたのです。そこで集めたデータを従来のコンピューターで画像化。データ不足のため本来なかったもやのようなノイズも出てしまいました。画像は不鮮明で治療には使えません。
そこで登場するのがスパースモデリング。スパースモデリングはコンピューターに「この画像から本当に必要な情報を浮かび上がらせよ」という指示を出します。すると、指示を受けたコンピューターが血管のにじんだ部分やもやのように霞んだ部分を消して埋もれていた血管がハッキリと見えるようになったのです。さらに実験の結果、9割近くまびいたデータからでもかなり正確な画像を導き出せることが分かりました。
スパースモデリングがブラックホールの姿を名推理
強力な重力を持つブラックホールは光さえも飲み込む暗黒の天体です。その正体をつかめばノーベル賞級の発見だと言われています。その観測に挑んでいるのが国立天文台の本間希樹さんです。
ブラックホールは、それ自身が光を発していないため通常の望遠鏡では観測できません。そこで新たな方法が考えられています。
本間さんが注目したのは、ブラックホールの周囲のガスが飲み込まれる直前に放つ光です。この光を観測できればブラックホールの形を浮かび上がらせることができるというのです。
この観測に使われるのが最新の電波望遠鏡。ところが、ブラックホールまでは距離が遠いためこの大きさでは観測は不可能でした。
そこで考えたのは、世界各地の7ヶ所にある電波望遠鏡を組み合わせて巨大な望遠鏡のような観測精度を実現しようという壮大な計画です。組み合わせることで観測の精度は高まりますが実際にデータを集められるのはデータが集まるポイントだけで、全体から情報を集められるわけではないのです。そこで導入したのがスパースモデリングです。
「サイエンスZERO(ゼロ)」
情報科学の名探偵!魔法の数式スパースモデリング
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