放線菌 夢の化学工場|サイエンスZERO

かつては有効な治療法がなく死の病と恐れられていた結核ですが、この病から多くの命を救ったのが1943年に発見されたストレプトマイシンという抗生物質でした。原因となる結核菌を抗生物質がやっつけてくれるのです。発見した研究チームのリーダーであるセルマン・ワクスマンは、ノーベル賞を受賞しました。

 

ストレプトマイシンを作っているのは、放線菌という微生物です。放線菌はこの70年間で薬の元となる物質を8000種類も作り出してきました。

 

実は身近な放線菌

土の土臭いニオイは、放線菌の作るジオスミンという物質。このニオイがする所は放線菌が多いのです。放線菌は胞子を作るので熱に強く、150℃まで耐えられるものもいます。熱で他の菌を殺すことで放線菌だけを選別します。

 

放線菌は、原核生物の中で最も進化した生き物です。生物はDNAが細胞の中にむき出しになっている原核生物と、DNAが核の中におさまっている真核生物に分けられます。多くの原核生物は単細胞ですが、放線菌は菌糸状に繋り胞子を作るという複雑な生き物です。また、持っている遺伝子の量も多いのです。

 

放線菌の研究は世界中で盛んに行われ、今でも毎年のように新しい放線菌が見つかっています。しかし、新種の発見数は増えていますが新しい化合物の発見数は頭打ちになってきています。また見つかった化合物の99.9%は、全く薬にもならないという状況です。

 

毒を薬に!新薬を創り出せ

薬にならなかった多くの物質を薬としていかすことは出来ないか、福井県立大学の濱野吉十さんは挑んでいます。ターゲットは、ストレプトマイセス・ローケイという放線菌。この放線菌は、70年前にストレプトスリシンという抗生物質を作ることが分かり新薬の候補として期待されていました。

 

しかし、薬としての能力は備えているものの、酵母にも殺菌作用を示してしまうのです。原核生物の大腸菌に対して酵母は真核生物。人と同じグループなので毒性が出る可能性が高いのです。実際に人の細胞への毒性も確かめられているため新薬にはなれませんでした。

 

この毒の効果を消し薬の効果だけを残すことは出来ないか、濱野さんが目をつけたのは分子構造でした。細胞への攻撃に関わっている部分は主に2箇所知られています。

1、βリジン

ストレプトスリシンの中にはベータリジンが複数ついたものがあります。調べてみると、これが多いほど細胞を殺す働きが強くなることが分かりました。つまり、細胞への攻撃を加速するアクセルのような働きを持っている部分です。

2、ラクタム環

五角形と六角形を組み合わせた構造です。開いたものは毒にも薬にもならないことが知られていました。攻撃を抑えるブレーキのような役割を持っている部分です。

 

ベータリジンでアクセルを踏み、ラクタム環を開いてブレーキをかけることで真核生物への毒性だけを取り除くことができないか。しかし、このような物質はほとんど存在しません。

 

そこで濱野さんは、ラクタム環を無理やり開く作用を持った酵素を探し出しました。まずはストレプトスリシンからベータジリンが複数ついたものを抽出。これに酵素を作用させラクタム環を開いてみると大腸菌は攻撃しつつ酵母には無害なものが見つかったのです。これはベータリジンが3つのものでした。

 

現在、濱野さんは薬としての効果をさらに上げるためこの現象の解明に挑んでいます。

 

耐性菌が新薬を創る

放線菌研究の第一人者である広島工業大学の越智幸三さんは、かつて研究室で偶然発見された現象に衝撃を受けたと言います。

 

研究員の扱っていた放線菌は、通常はストレプトマイシンを与えると死んでしまいます。しかし、たまに耐性を持ち生き残ることがあるのです。この耐性を持った放線菌を分離して育てた所、通常は作らない青みがかった物質を大量に作り出すことが分かったのです。耐性を持った放線菌は、通常は作らない物質を作り出す可能性を秘めていると、越智さんは放線菌と抗生物質を掛け合わせ1000種類の耐性菌を作りました。

 

すると、その半数が通常は作らない物質を作り始めたのです。その中のストレプトマイセス・セリカラーという放線菌とリファンピシンという抗生物質を組み合わせ、この菌が作った物質を分析してみると全く新しい抗生物質がありました。破傷風菌やボツリヌス菌などに効果が高く、ピペリダマイシンと名づけられました。

 

放線菌が生み出す驚きの新物質

北陸先端科学技術大学院大学マテリアルサイセンス研究科の金子達雄さんは、石油を使わないバイオプラスチックPI-1を作り出しました。PI-1は390℃まで耐えられる世界最高の耐熱性能を持ったバイオプラスチックです。

 

ただ実用化には問題があります。それは原料のアミノ桂皮酸に芳香族アミンという独特の構造が入っていること。このような物質は自然界にはほとんど存在せず、これまで1kg10万円と非常に高価だったのです。

 

しかし、放線菌の遺伝子を使えば芳香族アミンが効率よく出来ると、金子さんは高谷直樹さんに相談しました。芳香族アミンを作り出す数少ない生物が、ストレプトマイセス・ベネズエラエ。この放線菌が作るのはアミノフェニルアラニン。原料のアミノ桂皮酸と非常によく似ています。原料はコリスミ酸という物質で、これは大腸菌がブドウ糖から作ってくれます。また酵母を使えばアミノフェニルアラニンをアミノ桂皮酸に変換することも簡単です。

 

この大腸菌と放線菌と酵母を組み合わせればブドウ糖から一気にアミノ桂皮酸を作ることが出来るのではないかと、高谷さんは生産性の高い大腸菌に放線菌と酵母の遺伝子を組み込むことにしました。この方法なら1kg10万円していたアミノ桂皮酸を2000円程度で作れるようになると見込んでいます。こうして開発されたPI-1は車への応用が期待されています。

 

「サイエンスZERO(ゼロ)」
夢の化学工場 “放線菌”



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