岸利治さんは、東京大学生産技術研究所でコンクリートの耐久性について研究しています。今、開発中なのが自らひび割れを治す自己治癒出来るコンクリートです。
1960年代からの高度経済成長期に造られた建造物は築40年以上が経っています。最近、そんな建造物の事故が多発しています。もし、そうしたコンクリートを巨大地震が襲ったら…大きな危険を抱えているのです。
そんなコンクリートの耐久性を高める研究が東京大学生産技術研究所で行われています。そのリーダーは岸利治さん。そこでは土日も休みもなく朝から晩までコンクリートと向き合っています。さらに岸利治さんたちはダムや橋などの現地調査も行っています。
コンクリートは材料の配分や質、作り方の微妙な違いで強度に大きな違いがでます。岸利治さんはより強く安全なコンクリート造りを長年研究しているのです。
コンクリートの劣化は、ひび割れによって大きく進みます。ひび割れから流れ込んだ雨水が鉄筋をさびさせコンクリートの強度を著しく弱めるのです。コンクリートのひび割れは、樹脂を流し込んで一つ一つ修復してきました。しかし、これには大変な手間がかかります。
コンクリートにとってひび割れは宿命的なもの。コンクリートは水とセメントを反応させてつくりますが、固まる過程で反応しきれなかった水が蒸発し隙間ができます。するとコンクリートがこの隙間を埋めようとして全体が収縮し鉄筋に反発しヒビ割れが生じてしまうのです。早ければコンクリートを流し込んで1日でおきてしまう現象です。
岸利治さんは、ひび割れを自己治癒するコンクリートを開発しています。コンクリートに膨潤剤を加えるのです。
この膨潤剤をコンクリートに混ぜ込んでおくと、ひび割れから入った水が他の成分とともに反応し、ひび割れを埋めていくというのです。
岸利治さんは埼玉県新座市で生まれました。幼い頃から砂場で山やトンネルを作るのがすきでした。少年時代は高度経済成長期の真っ只中で巨大なコンクリートの建物が全国に造られました。東京大学に進学した岸利治さんは日本の高度成長を支える土木工学を専攻。コンクリートの研究に没頭しました。
巨大で頑丈なコンクリート建造物ですが、大学で日々研究するのは顕微鏡のむこうに広がるコンクリートのミクロな世界。岸利治さんはそんなミクロな世界の化学反応が豊かな社会を支えているというギャップに魅力を感じていました。
大学院を卒業すると大手建設会社に就職。現場監督の補佐として社会人の第一歩を踏み出しました。しかし、研究生活の充実感が忘れられず1年で退職し研究室へ戻りました。
まず始めたのは、ひびが入りにくいコンクリートの開発でした。しかし、ヒビ割れをゼロにすることはできませんでした。そこで岸利治さんが考えたのは、例えヒビが入ったとしても自分で治すコンクリートが作れないのか?というもの。岸利治さんはヒビを埋めてくれる素材を探し、コンクリートに配合しその反応を見続けました。
研究し始めて10年、思うように成果があがらず辞めようと考えたこともあったと言います。ところが2008年に素材の化学反応を研究していた安先生が韓国より来日し研究の協力を申し出てくれました。専門の違う安先生の協力で土木工学の範疇をこえた様々な素材を実験。そして、ついに膨潤剤に辿り着いたのです。その成果は専門誌や新聞でも取り上げられ岸利治さんの名前は一躍世間にも注目されました。
「夢の扉~NEXT DOOR~」
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