イギリス・ロンドンには、様々な理由でホームレスとなり路上生活を送っている者が多くいます。
2009年、39歳のジョン・ドーランもそんなホームレスの一人でした。すでに20年に渡る路上生活を続けていました。ジョン・ドーランは幼い頃に親に捨てられ、引き取られた祖父にも虐待を受けて育ちました。ドラッグにおぼれ、まともな仕事に就くこともできず盗みに走っては刑務所暮らし。さらに、ホームレスの仲間にも馴染めずにいました。居場所もなければ頼る家族や友人もおらず、まさにどん底の人生でした。
そんなジョン・ドーランも自治体が提供するホームレスの簡易住居に入ることが出来ました。そんなある日、同じ施設で暮らしていたホームレスのベッキーが犬(ジョージ)を連れてきました。ベッキーはペット禁止の公営住宅に移れることになり飼っていた犬をジョン・ドーランに押し付けたのです。これがジョンとジョージの出会いでした。
ジョージは3歳のスタッフォードシャー・ブル・テリアでしたが、ジョン・ドーランの言うことを全くききませんでした。留守番をさせると部屋中を荒らし、仕方なく一緒に外へ連れて出ると、せっかくお金を恵んでくれそうな人にも吠えて威嚇。そんなある日、ジョージを譲って欲しいと大金を手渡されました。
大人の勝手で振り回された子供の頃の自分と重なって、自分も同じことをしていると気づいたんです。ジョージにふさわしい飼い主になろうと思ったのはあの時からです。
(ジョン・ドーランさん)
心を入れ替えたジョン・ドーランは、まず見なしだみを整えることから始めました。そして長年断ち切ることのできなかったドラッグを辞める決意をしました。薬物中毒の更生プログラムを受け治療を受け始めました。
さらに、生まれて初めての就職活動も開始。しかし、学歴もなく前科のあるジョン・ドーランを雇ってくれるところはありませんでした。
以前だったら安易に盗みに走っていたと思います。でも自分が捕まってしまったらジョージの世話は誰がみるんだ。そう思うともう罪を犯すことは出来ませんでした。
(ジョン・ドーランさん)
そんなある日、ジョンを引いて走り出したジョージ。立ち止まった先には路上で絵を売るストリート・アーティストの姿がありました。
成績があまり優秀ではなかった少年時代に唯一学校の教師から褒められたのが絵を描くことでした。それからジョン・ドーランは来る日も来る日も絵を描き続けました。なけなしのお金でペンや紙を買い、路上から見える景色をひたすらスケッチ。しかし、素人の絵が簡単に売り物になるはずもありません。ジョン・ドーランの絵は3ヶ月が過ぎても1枚も売れませんでしたがそれでも描き続けました。
そんな彼らの姿はいつしか街で馴染みの光景となり、興味を持った写真家が2人の姿を撮影。愛嬌たっぷりのジョージの姿はいつの間にか街の話題になり、写真を撮ろうとする人が次々訪れるようになりました。
ジョン・ドーランは、ふとジョージのスケッチをしました。それまで風景しか描いたことのなかったジョンにとって初めて描く動物の絵でした。そしてこのことが思いがけない転機となりました。初めて絵が売れたのです。
それ以降、ジョン・ドーランが描いたジョージの絵は少しずつ売れ始めました。ホームレスが描く可愛い犬の絵の噂は瞬く間に広まり、ジョージの絵はさらに客を呼びました。
そして2012年、アーティストのシティズン・ケーンが声をかけてきました。彼はこれまで数千点の作品を世に送りだし、ロンドンのストリートアートの世界では知らぬ者はいない大物です。そんなシティズン・ケーンが展覧会に誘ってきたのです。
ジョンのような無名の新人を抜擢するのは初めてのことでした。でも噂を聞いて彼の絵を見に行った時、直ぐにファンになったんです。彼の絵は街の隅々まで驚くほど精巧に描かれていて、どこか人を惹きつける魅力がありました。
(シティズン・ケーンさん)
2013年9月、ジョン・ドーランにとって初めての展覧会が開かれました。参加したのは著名なアーティストばかりでしたが、その中で一番の売り上げを記録したのはジョン・ドーランでした。出品された彼の絵は全て完売。実に300万円以上もの売り上げを記録したのです。それは新人としては前例のない驚異の金額でした。
その後、ジョン・ドーランはパリやサンフランシスコでも個展を開催。これまでに4000点以上の作品を売り上げています。人生のどん底にいたホームレスは、ついに本物のアーティストに生まれ変わったのです。
ジョージがいなかったら私は今刑務所の中だったでしょう。どんなに人生が絶望的に見えても希望は常にそばにある。そのことをこの子が気づかせてくれました。私にとってジョージは最高のパートナーです。
(ジョン・ドーランさん)
ジョン・ドーランは今もジョージと一緒に路上で絵を描き続けています。彼の原点はストリートなため、アパートを借りられた今も路上で描いているのだと言います。
時に出会いは人生を変えます。ジョンはこれからも心に残る絵を描き続けるのでしょう。最高のパートナーと共に。
「奇跡体験!アンビリバボー」
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