人類と共に5000年歩んできた蚕ですが、今のカイコはただ糸を吐くだけではありません。現代の遺伝子組み換え技術を使えば、これまで作れなかった医薬品もまだ見ぬ新素材も作り出せてしまうのです。
カイコで薬を作る!驚きの昆虫工場
愛媛県にある繊維工場では、犬や猫の薬が作られています。薬の製造に用いられているのは蚕。糸を取るのではなく薬になる物質を作らせています。それはインターフェロンと呼ばれる物質です。ペットの風邪やアトピーなどの治療薬として主に動物病院で使われています。
用いるのは、カイコに感染する特殊な人工ウイルスです。感染した蚕の体内には、わずか1週間でインターフェロンが作り出されます。
カイコに感染したウイルスはまず全身へ広がります。成長と同時に蚕の細胞をのっとり、体中にインターフェロンを作り出させます。まさに蚕自身を薬の製造工場へと変えてしまうのです。
蚕1頭あたりから取り出せるインターフェロンは、製品にして約数十本。現在では国内シェアナンバー1を誇るビジネスにまで成長しました。ヨーロッパをはじめとする世界32カ国にも輸出されています。
遺伝子組換えカイコで繭に薬の成分を!
茨城県にある農業生物資源研究所では、遺伝子組換え蚕が飼育されています。年間40万頭200種類以上の開発が進められています。
中でも、昆虫工場の歴史を大きく変えたのが、光るクラゲなどの遺伝子を組み込んだ光るカイコです。
組換えに使われるのは、直径1mm程のカイコの卵。この卵にクラゲなどの光る遺伝子を注入します。このカイコから作り出されるのが光る繭。体だけでなくカイコが吐く糸の中にも光る物質を作らせることが出来ました。
現在では他の色の遺伝子を組み込むことにも成功。繭の色や性質を自在に操作することが可能となったのです。
繭で何でも生成!広がる産業化
ヒトのコラーゲンの遺伝子を組み込んだカイコも飼育されています。最大の特徴はカイコが作る繭からコラーゲンが取り出せることです。繭の中に作られたコラーゲンは液体につけて溶かしだすだけで抽出が可能です。大掛かりな設備も必要なく、より安全で手軽に取り出すことができます。
さらに、繭に物質を作ることにはもうひとつメリットがあります。それが作り出した物質の長期保存です。現在では抗体や医薬品などを繭の中に作り出す開発も進められています。
さらに、繭の遺伝子組換えによって新たな可能性も開かれようとしています。糸そのものの性質を操作することで、これまでにない新素材の開発が可能となったのです。
「サイエンスZERO(ゼロ)」
蚕業革命!カイコがつむぐ新物質
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