今、厳しい暮らしを強いられる若い女性が増えています。年収200万円未満の非正規雇用で働く若い女性は289万人にのぼっています。不安定な雇用環境の中、結婚して家庭を築くことに現実味が持てないという人も増えています。
女性の活用が国の成長戦略の柱の一つに位置づけられ、日本経済団体連合会も女性の活躍推進に向けた行動計画を発表しました。大きな期待が注がれているのが主に正規雇用の女性たちです。
その一方で同じ女性でありながら派遣やパートといった非正規で働く女性たちは働く女性の約6割を占めながら能力開発の機会、子育てしながら活躍できる職場環境からも置き去りにされがちです。何より厳しい経済状況に直面しています。
NHKが一橋大学と共同で行った分析によると、非正規雇用の15~34歳の女性の81.5%が年収200万円未満であることが明らかになりました。雇用環境の変化で、十数年の間に男女共に非正規という働き方が広がっていますが、この変化が今とりわけ若い女性にとって自立した生活が送りにくくなるという逆風となって現れています。そして、この逆風はもともと厳しいと言われてきた母子世帯の子供たちが困窮した生活から抜け出す道をより険しくし、貧困の固定化、そして階層化にも繋がっています。
OECDの調査では、日本の母子世帯の子供たちの貧困率が先進国で最悪レベルだという結果が出て、貧困の固定化が裏づけられています。
普通の生活がしたい 家族を支える19歳
鷲見千寿枝さん(19歳)は、中学を卒業してすぐに働き始めました。アルバイト先は家の近くにあるコンビニエンスストア。月収は約8万円。時給が高い早朝に加え、夕方も働いています。
鷲見さんの家族の暮らしが一変したのは、小学校1年生の時でした。一家を支えていた父親が亡くなったのです。49歳の母親はコールセンターなどでパートの仕事をしてきました。しかし、腎臓に持病を抱えているため働けない月も多く、鷲見さんが家計を支えてきました。鷲見さんは中学3年生の時、希望していた全日制高校への進学を諦めました。当時、小学生だった妹の世話など家事のいっさいも引き受けてきました。長女である自分が家を出ることは考えなかったと言います。
鷲見さんは、仕事や家事の合間に通信制高校で学んでいます。今よりも生活を上向かせたいと卒業後は保育士を養成する夜間の専門学校に通うことにしました。学費は3年間で300万円あまり。今の収入では足りないため奨学金を借りて支払うつもりです。
東京に出稼ぎ 懸命に生きる母娘
なぜ今、経済的に苦しむ若い女性が増えているのでしょうか。親の世代の貧困が子の世代へと連鎖していることが分かってきました。
19歳の伊藤なつきさん(仮名)は、地方から夜行バスで出稼ぎに来たと言います。愛媛県の大学に通うなつきさんは、4年間の学費400万円を稼ぐために出稼ぎに来ました。宿泊代をうかすためインターネットカフェで寝泊りしています。
なつきさんの両親は12歳の時に離婚。以来、パートの仕事をする母親と暮らしてきました。厳しい生活を抜け出そうと大学に進んだなつきさんは、学費や生活費のすべてを自分で工面するしかありませんでした。
愛媛の最低賃金は666円。思うように稼げないため、休みのたびに上京して働いていると言います。時給が高い工事現場の作業員など3つの仕事を掛け持ちしています。
伊藤さんの母親・伊藤かづきさん(仮名)は愛媛県東部の町で暮らしています。かづきさんは離婚した後、フルタイムで働かなくてはなりませんでしたが地元ではパートの仕事しかありませんでした。かづきさんがようやくつくことができた仕事は、レンタルビデオ店でのアルバイト。今も週5日働いています。夕方5時からは弁当のチェーン店でアルバイト。夜9時まで働きますが時給は720円。2つの仕事を掛け持ちしても月収は15万円を切ります。
非正規の仕事につく人の割合は男女ともに増えていますが、女性の平均賃金は男性の8割にとどまっています。貯えを作る余裕はなく、かづきさんは年金の保険料すら払うことが出来ません。なつきさんは大学卒業後は福祉関係の仕事に就き母親を支えたいと考えています。
ネットカフェで2年 母娘はなぜ
19歳の彩香さん(仮名)は、インターネットカフェで2年半も暮らしています。41歳の母親と妹(14歳)も同じインターネットカフェで暮らしています。派遣の仕事をしているという母親は、10年前に離婚してから娘を一人で育ててきましたが、生活に行き詰まりインターネットカフェに辿り着きました。妹は学校に半年近く通っていないと言います。
彩香さんはコンビニエンスストアで週5日アルバイトをしています。生活苦のため高校を中退した彩香さんがようやく見つけることが出来た仕事でした。約10万円のアルバイト代と母親から手渡される数万円が姉妹の生活費です。毎日の食事は彩香さんがコンビニから買って帰ります。1日1食なため空腹の時は店内の無料のドリンクバーでしのいでいます。
母親は離婚後、看護助士として働いていました。しかし、徐々に子育てと仕事の両立に疲れ生活は困窮していったと言います。周囲の人や行政に頼ることはありませんでした。
大学は出たけれど… 24歳の嘆き
村上悠さん(24歳)は、2年前に大学を卒業してから契約社員の仕事やアルバイトで生計を立ててきました。観光に関わる仕事がしたいと学生時代海外で学んだこともあります。今も就職活動を続けていますが正規の仕事に就くことは出来ていません。大学の時と同じアルバイトをし、時給は当時と変わらず800円です。
福島県出身の村上さんは、母子家庭で育ちました。大学を出て安定した暮らしをしたいと奨学金516万円を借りました。その返済が重くのしかかっています。
村上さんの大学時代の友人である齊藤愛実さん(24歳)は、カラオケ店に正社員として就職できました。しかし、1日10時間以上働いて手取りの収入は月15万円。ボーナスもありません。周囲の同世代の男性も同じような状況の人が多く、結婚して出産することは考えられないと言います。
娘の将来だけは… シングルマザーの願い
子供の世代への連鎖を断とうとして厳しい現実に直面する女性も少なくありません。シングルマザーは年々増加し、124万人にもなります。そのうち、20代のシングルマザーの8割が年間114万円未満で暮らす貧困状態におかれています。
5歳の娘を一人で育てる28歳の広田敏枝さん(仮名)は娘が一歳の時に離婚し、食品の訪問販売やスポーツ用品店の非正規の仕事をしてきました。一人親に支給される児童扶養手当など約5万円と合わせて生計を立てています。
子供の将来のために資格を取って生活を安定させたいと、保育士の資格を取るために去年から3年制の専門学校に通っています。利用したのが一人親の資格取得を支援する国の制度、高等職業訓練促進給付金です。学校に通う間の生活費が2年間、月10万円支給されます。
専門学校に支払うのは3年間で380万円。広田さんは学費を貯めるために子育てをしながら仕事を掛け持ちし1日10時間以上働きました。そのことで給付金が満額支給される所得の基準を超えてしまい月7万円しか受け取れないことになってしまいました。
貧しさの中で… わが子を手放す女性
生活が困窮するなか、授かった子供を手放す女性も増えています。茨城県土浦市にあるNPOは子供を生んでも育てることが出来ない女性たちの出産をサポートしています。生まれた赤ちゃんは特別養子縁組で子供を求める夫婦のもとに引き取られます。
2013年にNPOに寄せられた相談は1300件あまり。女性たちの半数以上が子供を手放す理由として経済的に苦しいことをあげています。
38歳の女性は働きながら高校に通い、その後も一人でギリギリの生活を続けてきました。念願の子供を授かりましたが、恋人の男性の同意を得られませんでした。自分の今の経済力では同じような人生を歩ませてしまうと、女性はNPOに子供を託すことを決めました。
安心して暮らしたい 19歳の思い
中学を卒業してから家族を支えるために働いてきた鷲見千寿枝さん(19歳)は、今月から専門学校の夜間コースに通うことになりました。入学式のために初めてスーツも買いました。夢だった保育士を目指します。鷲見さんが自ら働いて掴んだスタートラインです。
いつか安心して暮らしていけるのを信じて働き続ける日々がまた始まります。
「NHKスペシャル」
女性たちの貧困~新たな連鎖の衝撃~
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