プレシジョン・メディシン がん治療革命が始まった|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」でがん治療革命が始まった プレシジョン・メディシンの衝撃が放送されました。今、がん治療の革命が始まっています。これまでの抗がん剤とは全く違う仕組みでがんを攻撃する新しいタイプの薬が次々に誕生。そして患者の遺伝子を解析し、最適な薬を選び出す新たな医療プレシジョン・メディシンの登場です。この2つの相乗効果によって、がん治療の革命が動き出しているのです。

 

プレシジョン・メディシン 驚きの効果

高橋康一さん(48歳)は進行した大腸がんと闘っています。高橋さんは22歳でがんを患い、これまでに5回の手術と抗がん剤治療を受けました。そのたびに再発に苦しめられてきました。そして2016年5月、新たにリンパ節に転移が見つかりました。医師からは今度は手術をすることはできないと告げられました。その時に薦められたのが新しい治療法を試す臨床試験への参加でした。新たな治療を始めて2ヶ月、がんが43%も縮小していました。治療は大きな効果を上げていたのです。

高橋さんが使っているのは免疫チェックポイント阻害剤。この臨床試験では免疫チェックポイント阻害剤と分子標的薬を試しています。これまでの抗がん剤とは効き方が全く異なる薬です。そして、その効果を最大限に引き出すのがプレシジョン・メディシン。患者のがん細胞の遺伝子を解析し、最適な薬を選択する方法です。2つを組み合わせることで今がんの治療に革命が起きつつあるのです。

この臨床試験をすすめているのが「スクラム・ジャパン」というプロジェクトです。国立がん研究センター東病院を中心に、全国の医療機関と製薬会社が協力する大規模なプロジェクトです。現在、全国235の病院と15の製薬会社が参加しています。対象は主に進行した肺がんや大腸がんの患者。特に従来の抗がん剤の治療では十分な効果が得られなかった人たちです。

 

カギを握るのは遺伝子

瀬原進さん(69歳)は進行した肺がんを患っています。骨に転移が進み、手術では対処できないと診断されました。肺がんで通常行う抗がん剤治療も効果が上がりませんでした。2016年8月には新たに肝臓への転移が見つかりました。瀬原さんには2015年に孫の大翔くんが生まれました。幼稚園に入るまで成長を見届けたいというのが願いです。

瀬原さんは国立がん研究センターを訪れました。まず行うのは、がん細胞を取り出すことです。プレシジョン・メディシンはこのがん細胞の遺伝子を解析することから始まります。検査会社で最新の装置「次世代シーケンサー」を使ってがん細胞の遺伝子を解析します。

異常な増殖を続けるがん細胞は、もとは正常だった細胞に異変が起きることで生まれます。その原因となるのが遺伝子の傷、遺伝子変異です。人間の細胞には2万余りの遺伝子があります。その中で肺がんの場合、EGFR、ALK、ROS1、METなどと呼ばれる遺伝子に変異が起きることが分かってきました。実は、どの遺伝子変異ががんの原因になっているのかは患者によって異なります。こうした遺伝子変異はそれぞれタイプの異なる異常なたんぱく質を作ります。このたんぱく質ががん細胞を異常増殖させる犯人です。そこで、その働きを抑えるのが分子標的薬という新しいタイプの治療薬。それぞれの異常たんぱく質に結合し、その働きを抑えるように作られています。遺伝子解析を行い変異のタイプを見極めたうえで、それに適した分子標的薬を使うというのがプレシジョン・メディシンです。

従来の抗がん剤治療の場合、進行した肺がんではがんが小さくなった患者は約3割でした。これに対し、プレシジョン・メディシンではあらかじめ効果が見込まれる患者に絞り込んで投与します。代表的な肺がんの分子標的薬(ゲフィチニブ)の場合、がんが小さくなった患者は約7割。高い確率で効くことが期待できるのです。

大野さとみさん(48歳)は4年前、進行した肺がんと診断されました。肺にできていたがんは68ミリ。医師からは余命2年と告げられました。4種類の抗がん剤を投与し治療を続けましたが、十分な効果は得られませんでした。がんと診断されてから9カ月後、医師のすすめで遺伝子解析を受けた大野さん。RETという遺伝子に変異が見つかりました。しかし、この遺伝子変異のタイプに効く肺がんの薬はありませんでした。その時、医師から甲状腺がんの分子標的薬が示されました。実は大野さんから見つかったRET遺伝子の変異はすでに甲状腺がんで見つかっていて、薬も存在していました。同じRET遺伝子の変異なら同じ薬が効くのではないかと考えられ臨床試験が始まったのです。1ヶ月でがんは68ミリから48ミリに縮小。2か月後にはさらに小さくなりました。大野さんは当初2年と言われていた余命をはるかに超え、5年目を迎えています。

これまで臓器別に薬が考えられてきたがん治療。遺伝子変異別に最適な薬を選ぶことで、より長く生きることが期待できるのです。

 

実はがんの原因となる遺伝子の変異を特定することは容易ではありません。がんに関わる複数の遺伝子変異が同時に起きていて、どれが直接の原因なのか特定するのが難しい場合があるからです。

 

プレシジョン・メディシン 始めた病院

臨床試験の枠を超え一般の患者に向けてプレシジョン・メディシンを始めた病院の一つが北海道大学病院です。保険が効かない自由診療のため検査費用は約40~100万円です。これまで29人に効果が期待できる薬を紹介してきました。水野悦子さん(58歳)は子宮体がんを患っています。使っているのは乳がんや腎臓がんの薬です。子宮体がんの治療に使う場合には保険が適用されないため、毎月の薬代は90万円にのぼっています。

 

プレシジョン・メディシン 推進するアメリカ

日本では始まったばかりのプレシジョン・メディシンですが、強力におしすすめている国がアメリカです。2015年1月、オバマ大統領はプレシジョン・メディシンを今後の医療の柱とすることを宣言しました。すでにプレシジョン・メディシンは全米に広まっています。ファンデーション・メディシン社には各地の病院から年間4万人分のがん細胞が送られてきます。遺伝子変異のタイプ、承認薬、他の臓器で承認されている薬、臨床試験の有無など詳細な情報を担当医に伝えるサービスを行っています。

拠点となるがん専門病院では遺伝子データの蓄積に力を入れています。メモリアル・スローン・ケタリングがんセンターでは、すでに1万3000人の超える患者のデータを蓄積。がんの原因となる遺伝子変異を新たに見つけたり薬の開発に繋げたりしています。膨大なデータの蓄積とプレシジョン・メディシンの進展によって、これまで治療が難しかった患者に希望が見え始めています。

メモリーアン・アンセルモさん(60歳)はグリオブラストーマと呼ばれる極めて悪性のがんを患っています。患者数が少なく効果的な治療法はありませんでした。遺伝子を解析したところ、BRAFという遺伝子に変異が見つかりました。そこで同じBRAFの変異が原因となる皮膚がんの一種メラノーマの分子標的薬を試すことになりました。この薬が効いて2年経った今もがんは縮小したままでいます。

さらに、次世代のプレシジョン・メディシンが動き始めています。ノースカロライナ大学ではプレシジョン・メディシンと人工知能を融合させました。IBMが開発したワトソンは、この2年で驚くべき成果を出しました。ワトソンが成果を上げたのは通常の遺伝子解析でがんの原因となる遺伝子変異が特定できなかった患者の治療です。複数の遺伝子変異が起きていて、どれががんの原因になっているのか特定が難しいケースです。一方で、年間数十万件発表されるがんの論文の中には遺伝子変異の特徴やどの薬がどの遺伝子変異に効果があるかなど新たな情報が記されています。そこでワトソンに2300万件以上の論文を学習させました。その上で、遺伝子変異が特定できなかった患者のデータを読み込ませました。すると、論文とてらし合わせていくつもの遺伝子変異の中から最も可能性が高いものを特定。さらに最適な薬を選びだしたのです。

アメリカがプレシジョン・メディシンをすすめる背景には膨らみ続ける医療費の抑制という政府の狙いがあります。分子標的薬や免疫チェックポイント阻害剤など、今登場している新しい薬は価格の高いものが多いです。例えば免疫チェックポイント阻害剤ニボルマブの場合、アメリカでは1人あたり年間1600万円もかかります。これに対し、プレシジョン・メディシンを使えばあらかじめ効果のある患者を選んで投与できるのです。

 

薬が見つからない患者 どう支えるか

スクラム・ジャパンでは、集めた遺伝子変異の情報を新たな薬の開発に繋げようとしています。遺伝子変異のタイプが分かれば、がん細胞の異常な増殖を促すたんぱく質のタイプも特定できます。そのたんぱく質をターゲットに新たな分子標的薬を開発していこうというのです。遺伝子解析で薬が見つからなかったとしても、それは治療の終わりを意味するのではなく、新たな薬の誕生につながる可能性があるのです。

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