CO2削減の切り札!アンモニア研究最前線|サイエンスZERO

アンモニアは今、CO2の排出を減らす切り札として期待されています。アンモニアはNH3。窒素と水素だけでできています。つまり、燃やしても二酸化炭素が出ないのです。しかし、弱点もあります。それは燃えにくいこと。

その弱点を克服して、アンモニアを火力発電の燃料として使う研究が急ピッチで進められています。さらに、100年間変わらなかったアンモニアを合成する技術にも革命が。高温・高圧の環境が必要でコストがかかるのが難点だったのが簡単にできるようになったのです。

挑戦!アンモニアを燃料にする

燃えにくいアンモニアをどうやったら燃料にできるのか、東北大学流体科学研究所の小林秀昭(こばやしひであき)教授は2013年から研究をしています。アンモニアが燃え広がる速度よりガスが流れる速度の方が速いため、火を近づけてもその周りしか燃えずすぐに消えてしまうことが問題です。

これを安定して燃やすために小林さんは、2つの道具を使うことを考えました。1つ目が羽根状の器具。ガスを羽根から出すことでらせん状の流れができます。もう1つが、装置の周りを覆う筒状の耐熱ガラスです。

羽根状の器具を通って出てきたガスは、渦に巻き込まれたり壁にぶつかったりして再び炎を近くに戻ってきます。こうして炎から遠ざかったガスを何度も炎の近くに戻すことで、燃えにくいアンモニアを安定して燃やすことに成功しました。こうした研究をふまえて、アンモニアを燃料とする火力発電の実証実験も行われています。

アンモニア燃焼 窒素酸化物を減らせ!

高度経済成長の時、日本で大きな問題となったのが窒素酸化物です。大気汚染や酸性雨の原因となります。そこで、火力発電所では窒素酸化物の排出量を5ppm以下にするよう義務付けられているところもあります。そのため、発電所には窒素酸化物を減らす脱硝装置が取り付けられていますが、大きな設備が必要となることが課題でした。

小林さんたちは、アンモニアを燃やした時に発生する窒素酸化物の排出量を抑える研究もしています。小林さんは、アンモニアの濃度を調整することで窒素酸化物が減らせるのではないかと考えました。実は、アンモニアは空気と混ぜた混合気体として燃やしています。そこで、アンモニアの量を増やし空気を減らしていくと窒素酸化物の量が下がりました。空気の割合が減ると、アンモニアと酸素の反応の仕方が変わるため窒素酸化物ができにくくなるのです。

アンモニア燃料電池を開発せよ

アンモニア燃料電池の課題は、燃料であるガスを閉じ込める技術の開発でした。燃料のガスが周りに漏れ出さないよう、燃料電池の電極と金属のつなぎ目を塞ぐ必要があります。通常では、ガラスなどで密閉しますが水素の代わりにアンモニアを使うとガラスが腐食してしまうのです。

この問題の解決に挑んだのが、愛知県にあるセラミックスメーカーです。ここでは100年以上前から洋食器の製造を行っています。食器の表面はガラスでコーティングされています。食器製造で培った技術を応用しようと考えました。様々な成分のガラスを作り、アンモニアで腐食しない最適な素材を探しました。こうしてできたのがガラス製の封止材です。

新しい触媒でアンモニア合成を簡単に!

東京工業大学の細野秀雄(ほそのひでお)教授は、アンモニア合成の新技術を開発しました。触媒に使うのは、C12A7エレクトライドという物質。セメントに含まれるC12A7という物質に細野さんが手を加えたものです。

セメントであるC12A7は、かごのような構造の中に酸素イオンが閉じ込められています。細野さんは、この酸素の代わりに電子を入れる方法を開発。これがC12A7エレクトライドです。ここにルテニウムという物質をつけると、水素と窒素がくっつき水素の結合が切れます。次に窒素の三重結合は、エレクトライドの中にある電子と反応することで切れるのです。その後、不思議なことに水素原子が電子の代わりにいったんかごの中に取り込まれ、窒素と結合します。

こうしてアンモニアができるのです。このとき、エレクトライドは電子の出し入れをするだけ。これが触媒としての働きなのです。こうして、低温・低圧で簡単にアンモニアが合成できるのです。

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