睡眠負債が危ない ~ちょっと寝不足が命を縮める~|NHKスペシャル

私たちの健康を蝕む深刻な脅威が新たに見つかりました。それは睡眠負債。毎日1~2時間程度のちょっとした睡眠不足でも、それが続くといつの間にか積み重なって膨れ上がりあなたを苦しめます。いわば眠りの借金です。そして気づかないまま負債が返済不能なほど増えると、突如あなたに牙をむきます。

例えば、がん。最新の研究によって睡眠負債ががん細胞の増殖を加速させると分かってきました。さらには認知症。睡眠負債が続くと認知症の原因物質が脳に蓄積しやすくなると言うのです。

睡眠負債が招く深刻な病 がん

睡眠負債は放っておくとがんに繋がることが分かってきました。アメリカのシカゴ大学で、がんを移植したマウスで実験が行われました。定期的に通過するバーで睡眠を妨害したところ、4週間後に変化が起きました。

睡眠負債の状態に陥ったマウスではがんが巨大化。平均で2倍以上の重さになっていたのです。研究者は睡眠負債によって免疫細胞の異常が引き起こされたと考えています。

通常、私たちの体の中にがん細胞ができても免疫細胞が攻撃し抑え込んでくれます。ところが、睡眠負債になると免疫細胞も働きが低下。がん細胞がじわじわ増殖してしまうことが分かってきたのです。

睡眠負債が招く深刻な病 認知症

睡眠負債によってリスクが高まるのはがんだけではありません。認知症もその一つです。認知症の多くを占めるアルツハイマー病は、脳にアミロイドベータという老廃物が蓄積することで引き起こされると考えられています。これによって神経細胞が傷つけられ脳の働きが衰えるのです。

アメリカのスタンフォード大学の西野精治さんは、睡眠を3週間にわたって制限したマウスと、制限しないマウスの脳を比べました。すると、睡眠を制限したマウスではアミロイドβが大量に蓄積していました。

健康な脳でも日中の活動によって老廃物であるアミロイドベータが発生します。それは毎日眠っている間に脳から排出されています。しかし、睡眠時間が十分でない場合は排出しきれません。睡眠負債ではこの状態が続き、アミロイドベータが蓄積。認知症を引き起こす可能性が分かってきたのです。

睡眠負債を返済!劇的な効果とは

11人のバスケットボール選手を対象にした研究が行われました。平均睡眠時間は6.5時間で、みな睡眠は十分だと感じていました。研究者は選手たちにできるだけ長く寝るように要請しました。すると、平均で8.5時間に。気づいていないだけで睡眠負債があったのです。

このいつもより長い睡眠を1か月続けると劇的な変化があらわれました。3ポイントシュートの成功率が68%から77%に、ダッシュのタイムも16.2秒から15.5秒に。睡眠負債の返済効果は研究者の予想を超えるものでした。

ぐっすり眠る極意 厳禁!ベッドでスマホ

私たちの脳では夜、松果体という場所から眠りを促すホルモン「メラトニン」が分泌されます。血中のメラトニン濃度が上がっていくと眠くなる仕組みです。ところが、この働きを抑えてしまうのがスマホです。

メールやSNS、動画の閲覧などにより感情が動くと脳の視床下部からメラトニンを抑制する指令が送られます。このため眠りが妨げられるのです。

ぐっすり眠る極意 上を向いて歩こう

脳にある体内時計は生活のリズムを司っています。夜更かしを続けると体内時計がズレ、眠りを促すメラトニンの分泌も遅くなります。

2017年4月、ハーバード大学が発表した最新研究でその解決のヒントが示されました。わずか15秒間強い光を見ることで体内時計のズレを改善できるというのです。

最も有効なのは朝の太陽。短い時間でも良いので空を見上げれば効果が期待できます。十分な量の光が目から入り視交叉上核が刺激されると体内時計がリセットされます。すると、遅くなっていたメラトニンの分泌が早い時間に戻り速やかに寝付けるというのです。

睡眠時間の確保 企業はどうサポート?

働く人の睡眠時間を確保する社会での取り組みは、国がすすめる「働き方改革」でも重要な課題です。厚生労働省が企業に導入をすすめているのが勤務間インターバル。残業などで勤務が伸びた場合、次の勤務開始までに十分な休息がとれるよう始業時間を繰り下げます。それにより、睡眠時間を確保しようというのです。

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