遺伝子解析でサンゴを救え!|サイエンスZERO

サンゴ礁は海全体の面積の0.2%程度にすぎませんが、そこに海洋生物の3分の1から4分の1の種がすんでいます。また、サンゴは石のように固いので島のまわりの防波堤の役割もはたしています。

沖縄のサンゴ礁で何が起こったのか

沖縄県の石垣島と西表島の間に、日本最大のサンゴ礁が広がっています。石西礁湖と呼ばれるこのサンゴ礁の面積は、400平方キロメートルあります。

しかし、2016年8月サンゴに白化現象が起きていました。

白化は栄養がとれなくなって瀕死の状態のこと。

サンゴはほとんど動きませんが動物です。そのため、栄養が欠かせません。サンゴは触手を出して水中のプランクトンなどをとらえて栄養をとっていますが、これだけでは十分な栄養がとれません。実は、サンゴは足りない分を他の生物に補ってもらっています。

ほとんどのサンゴは茶色や褐色に見えますが、この色はサンゴの色ではなくその生物の色です。正体は褐虫藻(かっちゅうそう)と言われる植物プランクトン。光合成で作った有機物をサンゴに分け与えています。これがサンゴの主な栄養源になっているのです。

ところが、褐虫藻は水温が高い状態が続くとサンゴから抜け出ることが分かっています。褐虫藻が抜けると、サンゴの骨格である石灰の白い色が目立つようになります。これが白化の正体です。白化しただけではサンゴは死んでいませんが、この状態が1ヶ月も続くと栄養が取れなくて死に至るのです。

石西礁湖のサンゴに最適な水温は25~28℃と言われています。しかし、2016年8月の水温は31℃にもなりました。水温が高い状態が続いたために大規模な白化が起きてしまったのです。

サンゴの養殖で再生に挑む

沖縄県恩納村では、1998年からサンゴの養殖が行われています。海中で折れるなどして育たなくなったサンゴをマグネシウムなどで作られた土台にくくりつけ、海の中で育てています。

試行錯誤の末、金属の棒の上で育てるとサンゴがよく育つことが分かりました。こうしておくだけでサンゴは褐虫藻から栄養を貰い成長していきます。5年も経つと種によっては直径30cmくらいまで育ちます。こうしてサンゴ礁復活の手助けをしているのです。

サンゴは有性生殖と無性生殖で増えます。養殖は無性生殖を利用した方法です。受精はしていないので自分自身が増えているクローンです。しかし、サンゴの場合クローン同士はほとんど有性生殖をしません。そのため、クローンを見分ける必要がありますが、見た目では区別ができません。

そこで遺伝子解析を使った新しい方法によって、遺伝的多様性があるサンゴを再生しようという試みが行われています。

遺伝的に多様性があるサンゴ礁を再生

東京大学大気海洋研究所の新里宇也(しんざとちゅうや)准教授は、遺伝子解析が専門です。ミドリイシ類のDNAを抽出し、そこから次世代シーケンサーを使って遺伝子情報を取り出し、膨大なデータを解析しました。こうした方法で、2011年にコユビミドリイシというサンゴの全ゲノム解析に成功。サンゴの全ゲノムが解析されたのは世界で初めてのことでした。

さらに新里さんは、このデータを利用してサンゴがクローンかクローンでないかを判別する方法の開発に挑みました。注目したのは塩基配列。同じ塩基配列が繰り返し現れる場所をマイクロサテライトと言います。実は、繰り返しの回数は個体によって違うため、クローンを見分けるのに使えるのです。

新里さんはサンゴのマイクロサテライトを識別する方法を開発しました。そして新里さんは養殖したサンゴの遺伝子を解析しました。155体調べて見つかった遺伝子型は83。つまり2つに1つはクローンであることが分かりました。

一方、自然に生息する同じ種のサンゴを調べた結果、全て遺伝子型が違いました。自然のサンゴからはクローンは見つからなかったのです。恩納村では有性生殖がしやすいよう遺伝子型が違うサンゴ同士を近くに植えるようにしています。

サンゴに耐熱性を決定する遺伝子がある

テキサス大学オースチン校のミカエル・マッツ博士は、世界最大のサンゴ礁グレートバリアリーフが緯度の高いところから低いところまで広がっていることに注目しました。

緯度が高いオルフェウス島は、夏の水温が29℃ほど。一方、赤道に近いプリンセス・シャーロット湾は水温が31℃を超えることもあります。どちらにも生息しているハイマツミドリイシというサンゴを比べれば、高温に耐えるために必要な遺伝子が見つかるのではないかと考えました。

マッツ博士は高温と低温、それぞれの場所で育ったハイマツミドリイシを交配させる実験を行いました。まず、低温のオルフェウス島からAとBという2つの個体を採取。そして、高温のプリンセス・シャーロット湾からCとDの2つを採取しました。さらに、これらの個体から卵子と精子を採取。サンゴの多くは雌雄同体なので卵の中に卵子と精子が入っています。これを様々な組み合わせて交配させました。

こうして誕生した幼生を35.5℃の高温状態で飼育し、生存率を調べました。その結果、多くの幼生が37時間後には死んでしまいましたが、生き延びたものもいました。その一つがDの卵子とCの精子から生まれたもの。これはどちらも高温のプリンセス・シャーロット湾由来のものですが、Cの卵子とBの精子を交配させたものも生き延びました。

一方で、卵子と精子の組み合わせが逆だと早く死んでいることが分かりました。研究の結果、卵子が高温の地域由来の子供は精子が高温地域由来の場合より、5倍も生存率が高くなることが分かったのです。

マッツ博士は細胞内のミトコンドリアに耐熱性の遺伝子が存在するのではないかと考えています。ミトコンドリアは細胞の中でエネルギーを作り出している器官です。独自のDNAを持ちますがミトコンドリアの遺伝情報は母親からしか遺伝しないという特徴があります。卵子が重要だということはミトコンドリアのDNAに耐熱性の遺伝子があると考えられるのです。

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