ジオポリマー 酸に強い次世代コンクリート|夢の扉+

2000年の時を越えた今もその姿を残す古代ローマの巨大建造物。一方で、高度経済成長期に造られた日本の社会インフラは、現在次々に悲鳴を上げています。中でも深刻なのがコンクリートの劣化。この問題に取り組んでいるのがコンクリート研究一筋27年の一宮一夫(いちみやかずお)さんです。

コンクリートは、酸に弱いため劣化を引き起こしてしまいます。下水管が破裂することで年間4700箇所で起きている道路の陥没事故。コンクリート製の下水管を蝕む原因のひとつは汚水から発生する酸。それがコンクリートを溶かしてしまうのです。

一宮一夫さんは、この問題に27年前から取り組んでいます。そして今、実用化を目指しているのが酸に強い次世代コンクリート「ジオポリマー(Geopolymer)」です。ジオポリマーは酸に強いだけではありません。

従来のコンクリートの原料は水と砂利や砂、セメントですが、セメントは製造の過程で原料の石灰石などを燃焼するため大量のCO2が発生してしまいます。一方、ジオポリマーは火力発電所の石炭灰を再利用するためセメントに比べCO2を70%も削減できるのです。長寿命でエコというまさに次世代のコンクリートです。

一宮一夫さんのもうひとつの顔は、大分工業高等専門学校の教師です。この学校で一宮一夫さんは未来の土木技術者を育てています。自然災害の多い日本では土木技術は常に人命に関わります。だからこそ、高い意識を持って欲しいと一宮一夫さんは学生たちに願います。

大きな橋や道路を作る仕事に憧れていた一宮一夫さんは、大分高専の土木工学科に入学。22歳で母校の教員になり「土木技術者の育成に生涯を賭けよう」と誓いました。ところが、無駄と呼ばれた公共事業に批判が集中すると土木を志す学生も減っていきました。

思い悩んでいた一宮一夫さんに、西松建設愛川技術研究所の原田耕司さんから声がかかりました。原田さんは、1988年にフランスで発表された次世代コンクリートのジオポリマーに注目。理論はあったものの実用化されていなかった新技術です。

この時、原田さんが開発の協力を頼んだのがコンクリートのスペシャリストである一宮一夫さんでした。偶然にも20年以上前から酸に強いコンクリートの研究をしていた一宮一夫さん。願ってもないチャンスでした。

2010年からジオポリマーの開発が始まりました。最初の課題は、材料がきれいに固まる配合を見つけ出すこと。試行錯誤の日々が4ヶ月が過ぎた頃、学生たちの士気は目に見えて下がっていました。重苦しい空気に包まれる実験室。そんな時でも一宮一夫さんは「逆風は上手く使えば前に進む力に変わる」といって励ましました。学生たちはその言葉に励まされ何度も配合を繰り返しました。その数100パターン以上。

そして、実験開始から半年後、膨張もひび割れもなくキレイにしっかり固まったジオポリマーができました。

そして実用化に向けた実験が始まりました。実験場所は酸性の温泉水が休みなく流れ出る水路。コンクリートが溶けやすい過酷な環境です。ここに通常のコンクリートとジオポリマーそれぞれのプレートを敷き劣化の度合いを測定。1ヵ月後、通常のコンクリートは茶色く変色し表面がザラザラに劣化。一方、ジオポリマーはほとんど変化がありませんでした。

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