亡き妻のために法律をかえた岡村勲さんの10年の激闘|アンビリバボー

弁護士の岡村勲(おかむらいさお)さんが妻の眞苗さんと出会ったのは、司法試験に合格した26歳のとき。彼女はまだ大学生でした。その後、2人は結婚。以来35年、弁護士として多忙な生活を送る岡村勲さんを眞苗さんは影でずっと支え続けました。

そんな妻をいたわろうと岡村勲さんは久しぶりに妻を食事に誘いました。妻に「私と結婚してよかったと思っている?」と聞かれた岡村勲さんは照れくさくて返事ができませんでした。その答えの代わりになればと思い、初めて指輪をプレゼントしようと思い立ちました。

ところがその夜(1997年10月10日)眞苗さんは自宅の玄関先で何者かに殺害されてしまいました。

事件から7日後、容疑者・北山(仮名)が逮捕されました。北山は6年前、ある証券会社に株での損失を返せと恐喝めいた要求をしてきた人物。支店長はすぐに岡村勲さんに相談。岡村さんは証券会社に落ち度がないことを確認すると「毅然とした態度で拒否すべき」と忠告。その後、北山は恐喝事件を2件起こし逮捕されました。

しかし、出所すると北山は岡村勲さんを逆恨みし殺害を計画。宅配便を装い襲撃しました。しかし、岡村勲さんが不在だったため北山の怒りの矛先は妻の眞苗さんに。

妻を失った絶望は消えませんでした。そんな岡村勲さんをかろうじて繋ぎとめていたのは裁判の行方でした。妻の最期だけはどうしても知りたいと思ったのです。

裁判

1998年2月18日、第一回公判が開かれました。弁護士になって38年、被害者の遺族として傍聴席で裁判にのぞむのは初めてでした。

法廷では省略された言葉が飛び交い、傍聴席から聞いているだけでは理解不能で、公判の日程も一方的に決められてしまいます。その上、被害者遺族は発言できないため妻を侮辱する言葉に黙って耐えるしかありませんでした。

1999年9月6日、検察側は死刑を求刑。岡村勲さんも当然死刑を望んでいましたが、判決は無期懲役でした。

それまで岡村勲さんは、被告に求刑よりも軽い判決が下された時は弁護士としての満足感を感じていたと言います。そこに悲惨な被害者がいることなど考えもしなかったのです。

愛する妻を亡くした絶望と40年近くにわたって打ち込んできた弁護士という仕事に対する自責の念。岡村勲さんは大きな2つの十字架を背負うことになったのです。

そんなある日、眞苗さんの友人から手紙が届きました。そこには生前の彼女のエピソードが書かれていました。妻の笑顔が胸に浮かび、岡村勲さんはこんな辛い思いを誰にもさせてはいけないと決意しました。

犯罪被害者の権利のために

事件から3年、岡村勲さんは犯罪被害者の会「あすの会」を設立。あすの会の会員は日に日に増えていきました。そして司法制度の改革を目指し政治家や役人への働きかけをスタート。

岡村勲さんが最初に訴えたのは犯罪被害者の権利。これまで傍聴席で見守るしかなかった犯罪被害者が法廷の柵の中に入り、裁判に参加できる制度を提案しました。

しかし、専門家たちから予想以上の反対意見が。

1990年に最高裁が「裁判は国の秩序を守るためのもので、被害者のためのものではない」と明言。それ以来、法廷は検察と被告が争い裁判官が判決を下す場であって、そこに被害者の居場所はないというのが司法の世界の常識となっていた。

岡村勲さんは、被害者が裁判に参加できる制度が確立されているドイツを訪問。そして署名活動を開始しました。犯罪被害者のための裁判の実現を専門家ではなく直接国民に訴えたのです。その地道な運動の輪は徐々に大きくなり署名活動は全国に広がっていきました。そして1年半にわたる署名活動で55万に及ぶ署名が集まりました。

それらを携え岡村勲さんたちが向かったのは首相官邸。小泉純一郎さんのもとへ直接訪問し犯罪被害者の実情を懸命に訴えました。小泉元総理は犯罪被害者の権利確立について取り組むことを約束。大きな一歩となりました。しかし、専門家たちからはなおも反対意見が相次ぎました。1年に及ぶ検討会が終わり、内閣府から基本計画案が送られてきました。

そこには被害者の法廷への参加被害者への補償もすべて盛り込まれていました。さらに、「裁判は被害者のためにもある」とハッキリと書かれていました。最高裁の判例をくつがえす言葉でした。

そして2007年6月20日、いくつかの修正を加えたのち被害者が裁判に参加できる制度など岡村勲さんの思いが盛り込まれた法案が圧倒的多数で可決されました。それは日本の裁判のあり方が変わった瞬間でした。眞苗さんの事件から10年が経過していました。

岡村勲さんが今も大切に持っているものがあります。それはあの日選んだ指輪です。そこには最愛の人の名前が刻まれています。

「奇跡体験!アンビリバボー」
亡き妻のために法律を変えた男の10年の激闘

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