アルツハイマー病をくい止めろ!|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」でアルツハイマー病をくい止めろ!が放送されました。

 

アメリカ・セントルイスにあるワシントン大学では6年前から画期的な研究が進められています。ワシントン大学を中心とした国際研究DIAN研究のチームです。アメリカ、イギリス、ドイツなど150人を超える研究者が集結しました。研究リーダーのジョン・モリス教授はアルツハイマー病の克服を目指して30年。効果的な治療法を開発することは出来ませんでした。そこでモリス教授は今まで誰も思いつかなかった方法に挑戦することにしました。家族性アルツハイマー病の人たちに注目したのです。家族性の人は遺伝によって極めて高い確率である年齢になるとアルツハイマー病を発症します。親族14人のうち11人がアルツハイマー病を発症した一族の孫にあたるブライアン・ホイットニーさん(41歳)。ブライアンさんの一族のアルツハイマー病発症の平均年齢は50歳。あと10年程で発症する可能性があります。研究には家族性アルツハイマー病の家族300人が協力することになりました。例えばブライアンさんの脳を調べれば発症10年前の状態が分かるのではないか、様々な年齢で調べればどのように脳が変化して発症に至るのかも分かるかもしれないとモリス教授たちは考えたのです。家族性アルツハイマー病の家族に対し脳の画像、血液、遺伝子まで徹底的な検査が行われました。研究が始まってほどなく驚きの発見がありました。まだ発症まで時間のあるはずの30代の脳で異変が起きていたのです。それはアミロイドβ(アミロイドベータ)というたんぱく質の蓄積です。脳の組織を顕微鏡で観察すると黒いシミ状の斑点として現れます。アミロイドβは脳が活動すると神経細胞から出てくる老廃物です。アミロイドベータが脳にたまって神経細胞のシナプスを傷つけ、やがて神経細胞を死滅させアルツハイマー病を引き起こすと考えられます。ダイアン研究によってアミロイドβが溜まっていく様子が明らかになりました。アミロイドベータが脳に溜まり始めるのは発症の25年も前。年をおうごとにアミロイドベータの量は増えていきます。発症の時にはアミロイドβが脳全体に広がっていました。発症まで25年もかけて溜まり続けるアミロイドβ。アルツハイマー病の発症は70歳を超えると増えていきます。70歳の25年前というと45歳。知らないうちから変化が進んでいるのです。また発症の15年前からタウという別の物質が増加することも分かりました。神経細胞にとどめを刺すのはアミロイドβではなくタウです。タウはアミロイドベータがシナプスを傷つけた後に神経細胞の中に集まり始めます。タウが集まると神経細部は死滅。タウが最初に溜まるのは脳の奥深くにある海馬です。海馬は記憶の中枢と言われています。神経細胞が破壊された結果、海馬全体が萎縮していきます。そのため記憶力が低下しアルツハイマー病を発症するのです。

 

イギリスの大学が開発したLMTXという薬は神経細胞にとどめを刺すタウをたたくものです。アルツハイマー病の進行に伴って神経細胞の中に集まるタウ。LMTXは集まったタウを分解する働きを持っています。こうして神経細胞が死滅するのを防ぎアルツハイマー病の進行を止められると考えられています。LMTXの臨床試験は最終段階に入っています。しかし、アメリカでは過去20年間に101もの薬がアルツハイマー病の治療を目指したものの失敗したと言います。最終段階に進んでも大勢でテストして効果が出なかったり、副作用が現れたりすれば開発は中止されます。果たしてLMTXがアルツハイマー病をくい止める最初の薬になるのか、その結果は早ければ2年後に出ます。

 

ドイツ人医師アロイス・アルツハイマー博士がアルツハイマー病を最初に報告したのが100年前。いまや人類最大の敵とも言われています。2013年12月、イギリスにG8各国が集い史上初めて認知症サミットが開催されました。この背景には世界的な認知症患者の急増があります。現在4400万人ですが、2050年には3倍近くにまで増加すると考えられています。またアルツハイマー病の社会的費用は他の病気に比べて格段に高いです。今後、患者が増加すれば経済までも破綻しかねないという危機感からG8各国が協力。研究費を増額し薬の開発を共に進めていくことが決まりました。先進国の中で最も早くアルツハイマー病の患者の急増に直面するのが日本です。現在、認知症患者は推定462万人。その約7割がアルツハイマー病です。今後、団塊の世代がアルツハイマー病を発症する年齢に。30年後には認知症の患者の数は1000万人を突破すると推定されています。だからこそ今アルツハイマー病の対策が緊急の課題となっているのです。

 

国立長寿医療研究センターの島田裕之さんの研究チームはMCI(軽度認知症)の人を対象に海馬の萎縮を食い止める予防プログラムを開発しました。そのプログラムとは運動です。研究チームではタブレット端末を使いMCIの疑いのある人を正確で簡単に調べる方法を開発しました。様々な検査を行い認知機能を点数化。年代別の平均点よりも低ければMCIの疑いありです。予防プログラムで行うのはただの運動ではありません。計算をしながらウォーキングをしたり、踏み台昇降をしながら二つ前の人が言った単語まで記憶しながらしりとりをしたり、運動と同時に頭を働かせます。これらを90分間、週に1回行います。こうした運動が細胞レベルで脳を再生させる可能性がすでに明らかになってきています。運動で筋肉が刺激されると血液中の成長ホルモンが増加します。すると脳の海馬ではBDNFという物質がより多く分泌されます。BDNFは新たな神経細胞を生み出すように働きかけます。このとき、運動と同時に計算やしりとりで海馬に負荷をかけると新しくできた神経細胞同士の繋がりが増し活性化するのです。こうして海馬の神経細胞が再生されると推定されています。例えタウの増加によって神経細胞が死滅してもこの運動で神経細胞を増やすことが出来れば海馬の萎縮を防ぐことが出来るかもしれないのです。

 

日本ではアルツハイマー病の人が増え続けています。なぜ増えているのか、その謎に迫る研究を続けているのが九州大学環境医学の清原裕さんの研究グループです。九州大学では久山町と協力し1961年から50年に渡って住民の健康状態を追跡調査してきました。参加するのは町民4000人。規模の大きさと調査の正確さから世界でも有数の疫学調査として知られています。最新調査結果が日本のアルツハイマー病患者の不気味な増加の兆候をとらえました。1992年は65歳以上の人でアルツハイマー病の患者は1.8%でしたが、2012年には12.3%にも増加。寿命が伸び長生きする人が増えただけでは急増の説明がつきません。背景にはライフスタイルの変化があるのではないかと清原教授は考えています。中でも食生活の変化が影響している可能性があると言います。久山町の住民で1960年代以降増加しているのが食後の血糖値が高くなる糖代謝異常。40年間で7倍に増えています。清原教授たちは糖代謝とアルツハイマー病の関係を調べました。その結果、血糖値が高い人ほどアルツハイマー病の危険度が高いことが分かったのです。

 

ワシントン大学のデイビット・ホルツマン教授はアミロイドベータと睡眠の関係を調べています。アミロイドβは起きている間、脳の神経細胞が活発に活動する時に作られます。そして寝ている間、その多くが髄液と一緒に脳の外へ排出されることが分かってきました。睡眠の質が良い人ほどアミロイドベータがきちんと排出されていることが分かったのです。

 

アミロイドベータを大きな副作用なく取り除くことに成功した薬がガンテネルマブ。投与されたガンテネルマブは脳の到達するとアミロイドベータと結合します。すると脳の中の免疫細胞が薬と結合したアミロイドβを食べるように。こうしてアミロイドベータを取り除くことには成功したのですが、ガンテネルマブはいまだに世には出ていません。うまく行かないわけをダイアン研究が明らかにしました。アミロイドベータが発症まで25年をかけて増加するものの、発症の頃を境に逆に減少していくことを突き止めました。この時、アミロイドベータは既に病気を進行させる役割を終えている可能性があります。これまで薬の試験の対象は発症後の人たちでした。発症した後にアミロイドベータを取り除いてもなかなか効果は期待できないのです。では、もっと早い段階で薬を投与すればいいのではないかとダイアン研究のチームは製薬会社とタッグを組み、去年新たな研究を始めました。臨床試験では再び家族性アルツハイマー病の人たちに協力を求めました。研究にはまだ発症していない210人が参加する予定です。彼らの発症をくい止めることが出来れば一般の人のアルツハイマー病の予防も可能になります。




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