暴力団離脱 その先に何が|ドキュメント決断

暴力団対策法、暴力団排除条例など警察や社会が包囲網を強化し組織を追い込んできました。構成員の数は今、過去最小にまで減少しています。暴力団をやめた者たちはその後どうなったのでしょうか?

 

 

暴力団排除 その裏で何が

2014年、警察庁が発表した暴力団情勢によると、全国の暴力団員の数は年々減少。ピーク時の9万人から、去年初めて6万人を切りました。なぜ暴力団員は減っているのでしょうか?

 

大阪・西成区に拠点をおく指定暴力団「二代目東組」は54年前に結成され、構成員は現在160人。他の組織と激しい抗争を繰り返しながら独立を維持してきました。

 

取材に応じたのは副組長の川口和秀(かわぐちかずひで)さんら幹部たち。取締が強化される中、名刺も脅迫の道具とみなされる可能性があるため渡していないと言います。3年前に全国で暴力団排除条例が施行され、最も打撃を受けているのは金融機関の口座解約の増加だと言います。

 

幹部の一人は、子供の学校の授業料を口座引き落としに出来ず、毎月現金で持参させています。そのため、学校で子供が特殊な扱いを受けるようになったと主張していました。自動車保険にも入れず、事故を起こしても保障はありません。暴力団の利益に繋がる要素を徹底的に遮断し、組織の弱体化がはかられています。

 

強まる暴力団排除の流れは、組織の状況を変えてきました。

 

刺青を拒否しない銭湯も少なくなり、行動できる範囲は狭まっていると言います。今の時代には合わないと若手の構成員には刺青を無理に入れさせないそうです。ピーク時500人いた構成員は半分以下に減りました。

 

組織を抜けた者たちはどこに行ったのでしょうか?

 

暴力団離脱 その先に何が

関西の暴力団を脱退した40代の男性は、かつて債権の取立てなどを行っていました。男性は人工的に体の一部を作る会社を訪れました。男性は組織の掟に反したとして小指を切り落としていましたが、社会に復帰するために義指を作りたいと相談に来たのです。

 

男性は、元暴力団という経歴が社会復帰の足枷になっていると言います。組織離脱後、知り合いの紹介で会社に就職したものの、暴力団にいた過去が同僚に伝わり周囲から孤立。退社に追い込まれました。隠し切れない自らの過去のため、男性は今も定職に就けずにいます。

 

 

社会の壁を乗り越えられず、再び犯罪の誘惑に揺れる者もいます。

 

かつて暴力団で覚せい剤を売買していた40代の男性は、刑務所に服役後、組織を離脱しました。ハローワークに通いつめ新たな仕事を探しましたが、誰からも信用してもらえなかったと言います。

 

暴力団をやめた仲間の中に、更正を諦め再び犯罪に手を染める者もいると言います。暴力団に属さず、いわゆる半グレになっていく知り合いも少なくありません。男性のもとにも最近かつての知り合いから「仲間に加わらないか?」と誘いが来るようになりました。

 

 

組織犯罪の研究を続ける教育学博士の阿部憲仁さんは、暴力団員の数を減らすだけでは治安は守れないと考えています。阿部さんは、定期的に府中刑務所で受刑者の話を聞いています。暴力団に関係する受刑者のうち現役の構成員が約4割に対し、元暴力団員は約6割。組織を辞めた後に罪を犯し逮捕されるケースも多いのです。

 

暴力団をやめる決断をどう支えるのか、ある取り組みが行われています。

 

暴力団離脱 真の更生とは

NPO日本青少年更生では、元暴力団員たちを寮で受け入れ、建設関係の仕事を提供し社会復帰をサポートする活動を行っています。

 

 

NPOの会長である西山俊一さんが活動を始めたきっかけは、自らの過去にありました。

 

西山さんは17歳で山口組系暴力団に所属し、40人の構成員をたばねる組長になりました。組織の独立をめぐる抗争で命を狙われ、2発の銃弾を受けたこともありました。

 

暴力の世界と決別した西山さんは、更生を目指して建設会社を始めましたが、誰からも仕事をもらえない日々が続き、前科者はなかなか社会が許してくれないことに気づいたと言います。だからこそ、西山さんはそういう人たちを使ってあげたいと思ったのです。

 

活動を始めて30年、西山さんの元には暴力団をやめようとする人たちからの手紙が殺到しています。西山さんは、これまで100人を超す元暴力団員たちを受け入れてきました。

 

2年前に西山さんのもとにやってきた40代のAさんは、暴力団時代に事故を起こし服役しました。家族とも絶縁し帰る場所を失ったAさんは、獄中で西山さんの存在を知り手紙を書きました。西山さんは更生の気持ちに偽りはないと感じ、Aさんを受け入れることにしました。

 

出所後、すぐにAさんを建設現場に送り出した西山さん。相手を信用し仕事や役割を与えることが更生への第一歩だと考えています。

 

そして、もう一つ重要なのが社会に対する不信感を拭い去ること。西山さんは、地元で開いている武道の道場にAさんを誘い、地域の子供たちと練習を続けさせました。当初、誰とも話すことのなかったAさんに変化が出始めNPOに来て2年、Aさんは寮を出て一人立ちすることを考えるようになりました。

 

しかし、更生への道は成功ばかりではありません。面倒をみていた30代の男性が傷害事件を起こし懲役の実刑を受けたのです。面会で男性は西山さんに詫び「もう一度チャンスが欲しい」と語りました。西山さんは男性に裏切られたとは感じていないといいます。

 

西山さんは「受け入れる側も本当の決断をして多くの更生者を作ることを決断して欲しい」と語っていました。

 

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