動物はなぜ眠るのか ~睡眠の科学~|地球ドラマチック

動物が生きていく上で欠かすことができない睡眠。睡眠は動物にとって食事や生殖活動と同じくらい重要です。

しかし、睡眠中は最も無防備になるため動物は様々な眠りのスタイルを獲得してきました。一度に数秒しか眠らないもの、一生の90%以上を無意識の状態で過ごすもの、夢を見るもの、眠っているようには見えないもの。睡眠は多くの謎に包まれています。

人間は毎晩同じ場所で目を閉じて朝までぐっすり眠りますが、そんな睡眠をとる動物はほとんどいません。では他の動物はどのように眠っているのでしょうか?

飛びながら眠る?

ヨーロッパアマツバメは、一度巣立つと成熟するまでの2年近く地上に降り立つことなく飛び続けます。飛行距離は地球10周分にもなります。空中で羽繕いし交尾し、そして眠ります。ヨーロッパアマツバメはなぜ飛び続けるのでしょうか?

鳥は飛び立つ時に翼を枝や地面にぶつけないように羽ばたく必要があります。翼を広げるスペースを確保するため両足で飛び上がり体を一気に持ち上げなくてはなりません。しかし、ヨーロッパアマツバメは足がとても短いため翼が地面にぶつかってしまい羽ばたくことが出来ません。しかも、足の指の筋肉が弱いため枝にとまることさえできません。

ヨーロッパアマツバメは高いところから飛び降りることで羽ばたくスペースを確保します。巣穴が高い場所にあるのもそのためです。ひな鳥は巣立ちの日をむかえると自分の巣穴を探す時が来るまで約2年間、地上におりることなく飛び続けます。

夕方になり日の光が弱まると、ヨーロッパアマツバメは上空にのぼり始めます。2000m以上上昇することもあります。上空であれば何者からも攻撃されず何かにぶつかることもありません。

ヨーロッパでは夏場、満月にかかるヨーロッパアマツバメのシルエットを見ることができます。4秒間の羽ばたきと3秒間の滑空を繰り返し、空に大きな円を描きます。

ヨーロッパアマツバメは、眠りながら空を飛び続けているのかもしれません。しかし、残念ながらそれを証明する方法はまだ見つかっていません。

そもそも動物はなぜ眠るのでしょうか?体を休めるためというのは重要な理由ではないようです。渡り鳥は海を渡る時、休息のために止まることはできません。では、飛びながら眠っているのでしょうか?

ハッキリしたことはまだ分かっていませんが、人間とは全く違う特殊な眠り方をしているのかもしれません。近年、鳥の飛行中の羽ばたきは脊髄によってコントロールされていることが明らかになりました。羽ばたきは呼吸とほぼ同じように無意識の動きである可能性が高いということです。

ただし、方向感覚をどう保っているかはまだ解明されていません。眠ったまま目的地に向かって飛べるものでしょうか?

また鶴は眠っている間も会話をするかのようにひっきりなしに鳴いています。鳥の睡眠は多くの謎に満ちています。

昆虫は眠る?

昆虫も昆虫なりに睡眠をとっていると考えられています。トンボは繁殖活動で消耗する日があると、次の日はあまり動かずに休んでいます。おそらく昆虫はこうして活動のバランスをとっているのです。

ハチやアリは働き者で絶えず動き続けています。日中は眠るどころか止まりさえしません。こうした社会性昆虫の巣は、時に活動が盛んになりすぎて温度が上がることがあります。その場合は通常よりも動きが緩くなります。そんな時でさえ眠っているようには見えません。

一年の間には活動が鈍る時期もあります。しかし、休眠や冬眠は日々の睡眠とは全く異なるものです。

睡眠と休息は別

休息をとることと眠ることは別の行為です。ライオンが1日に20時間眠るというのは間違いです。ライオンは眠っているのではなく休息をとっているのです。

ライオンはできるだけ長い時間横たわって過ごし、飛び出す機会をうかがっています。狩の成功は、必要な時に十分な力を蓄えているかどうかにかかっているからです。

安心して眠るには…

獲物として狙われる動物の場合、深く眠るか浅く眠るかは恐怖心の度合いによって左右されます。

ハイラックスのように群れをなす動物の場合、一匹が見張りをしていれば残りのものたちはよりリラックスして睡眠や休息をとることができます。

カバは攻撃される危険がないため安心して眠れるはずですが、熟睡するためには別の問題があります。体の重みで寝ている間に内臓や血流をそこなう恐れがあるのです。寝る姿勢をしばしば変える必要があるため、熟睡が長く続くことはありません。

こうした苦労は他の多くの大型動物にもみられます。キリンは体が大きいとはいえライオンの獲物になる危険性があります。そのため通常は群れで睡眠や休息をとります。

キリンは長い首のおかげで地平線を360度見渡せ、危険がまだ遠くにあるうちから気づくことができます。それでも座り込んで眠るのは危険です。立ち上がるのに時間がかかるからです。そのためキリンの足は立ったまま眠っても関節がかたくなりません。

脳を片方ずつ眠らせる!

キリンの睡眠において最も重要な点は、脳が片方ずつ眠ることです。脳全体が一度に眠るのではなく左右の脳が順番に2~6分程眠ります。眠っている間、ずっと両目を閉じているのは非常に危険な行為で、そんなことが出来る動物はごく少数に限られています。

フラミンゴもキリンと同様、脳を片方ずつ切り替えて眠ります。こうした睡眠のとりかたが決して珍しくないことが最近の研究によって明らかになりました。

脳を片方ずつ眠らせるのは原始的な睡眠の形で、脳全体を眠らせることができるのは睡眠中の安全が確保された動物に限られていると考える研究者もいます。群れで眠る時に少数のものが見張りをするシステムは、安全を確保するために生まれたものだと考えられます。捕食者が近づいても誰かが警告してくれると分かっていれば、より安心して眠ることができるからです。

多くの鳥は眠るとき集まって群れをなします。実はそこには位置を巡る争いがあります。鳥は群れの中での序列によって飛ぶ位置が決まります。最も体格が良く経験豊富なものたちは群れの真ん中に陣取ります。一方、若く弱いものたちは真ん中へ行きつくことができず、いつも端を飛びます。捕食者からの攻撃を受けやすい位置です。端にいる鳥たちは危険な位置についているかわりに食べ物やねぐらを見つけやすくなります。

しかし、ムクドリはねぐらの位置にいる時も飛ぶ時と同じ位置関係を保ちます。序列の高いものは木々の真ん中で守られ、低いものは周りをかためます。このような場合、序列の低いムクドリは脳の半分しか眠らせることができません。

睡眠の科学

進化の歴史上、動物が熟睡できるのは例外的なケースだと言えます。人間も心配事があったり興奮したりしていると眠りが浅くなります。緊張がとけないためです。目覚まし時計がなる前に目覚めた経験は誰にでもあるでしょう。

動物は睡眠中は守りが甘くなり危険であることを知っています。そのため、睡眠中は敵に姿を見つけられないよう身を隠そうとします。自然界で動物の目を覚ますことなく睡眠の調査を行うのはほぼ不可能です。また、動物の中には睡眠と完全な静止状態を区別するのが難しいものもいます。

睡眠の生物学的起源は、静止状態に関わりがあると考えられています。動物はじっとしている方が動いている時よりも捕食者の目につきにくくなります。また、使うエネルギーも少なくてすみます。彫刻のように動かずにいることには利点があるのです。静止状態でいることで身を守るのは睡眠の原始的な役割の一つと言えます。

空腹だと眠れない

代謝の調節も睡眠の役割と関わりがあるかもしれません。

ヨーロッパジネズミは、世界最小の哺乳類の一つです。肉食で毒を持ち、毎日自分の体重と同じだけの昆虫やミミズを食べます。絶えず動いているため大量のエネルギーを消費します。代謝も非常に活発です。

いつも食べ物を探しているため、3時間以上連続して眠ることはありません。そんなことをしていたら飢え死にしてしまうからです。時にはお腹がすいて凶暴になることもあります。お腹が満たされればそれだけ長く眠れます。しかし、またすぐに空腹になり狩に出かけていくことになるはずです。

コウモリもヨーロッパジネズミと同じように代謝が活発です。しかし、コウモリは動物の中でも睡眠時間が長いことで知られています。中には1日に最大20時間眠る種もいます。

体内時計が睡眠をつかさどる

睡眠には様々な役割がありますが、その中でも何が一番重要なのでしょうか?最近まで睡眠は脳や筋肉を休息させるためのものだと考えられてきました。しかし、今は違います。

脳は睡眠中も活動しているだけでなく、時には起きている時以上に活発になることが分かっています。また、体が疲れている場合はもちろんですが、疲れていなくても眠くなります。脳や筋肉を休息させるというのは睡眠の最も重要な役割ではないようです。では、どうして動物は眠るのでしょうか?

最新の研究から、全ての動物に活動を管理する体内時計がそなわっていることが明らかになってきました。体内時計は動物が見たり吸収したりする光の量に左右されます。光と闇があらゆる動物の毎日のリズムを決定づけるのです。これは概日リズムと呼ばれ、脳の奥深くにある視交叉上核と呼ばれる器官で調整されます。

視交叉上核は、眠るべき時間になると眠気をよびおこすメラトニンの分泌を促します。夜になると眠くなるのはこうしたホルモンのおかげです。朝になると視交叉上核はホルモンの分泌を促すことをやめ、ホルモンは血液に吸収されていきます。

まぶたの登場

目の原型となったのは、明るさと暗さの違いを感知するだけの単純な器官でした。進化の過程で視覚が発達してくると今度は膨大な情報が常に脳に入ってくるのを制限する必要が出てきました。しかし、それは簡単なことではありませんでした。

節足動物や軟体動物、魚などにはまぶたがありません。ヘビにもありません。ヘビは眠る時、目を開けたまま見るのをやめるのでしょうか?あるいは目からの情報が脳に伝わるのを止めることができるのでしょうか?

両生類の目には乾いた陸上でも目の水分を保つための透明な膜があります。しかし、見るのを止めるには目玉を頭の中に引っ込めるしかありません。一部の爬虫類と鳥類、哺乳類には発達したまぶたがあります。

まぶたは比較的後になって進化したもので、動物たちの睡眠を容易にしました。まぶたを閉じると光や画像はシャットアウトされ眠ることに集中できるからです。夢を見るためにも重要です。

ノンレム睡眠とレム睡眠

鳥類や哺乳類は眠りにおちるとノンレム睡眠と呼ばれる段階に入ります。ノンレム睡眠は少しずつ深くなり、脳の活動も減っていきます。この段階で目を覚ますと夢は覚えていません。また、しばしば寝ぼけた状態になります。ノンレム睡眠はセロトニンなどの神経伝達物質が減少するのが特徴です。

ノンレム睡眠の後にレム睡眠と呼ばれる段階が始まります。このとき、私たちは夢を見るのです。なぜ私たちは夢を見るのでしょうか?

夢はとても個人的な体験で、それぞれの個性に左右されます。過去がよみがえるのも何かを学習するのも、あるいはナンセンスな展開も全てその人の感覚によるものです。夢を見る動物で人間のように夢を意識しているものはほとんどいないと考えられています。

動物も夢を見る?

ではなぜ動物は夢を見るのでしょうか?睡眠中に夢を見るにはレム睡眠に入らなければなりません。またレム睡眠中はまぶたの下で眼球が急速に動いていることが分かっています。

鳥は1日平均11時間以上眠っていると考えられています。ただし連続してではなく数秒という短い単位で断続的に眠っているのです。鳥は一生の33%は目覚めた状態で活動し、18%は目覚めたまま動かずに過ごします。目覚めている状態は合わせて51%。つまり半分近くは眠っているということです。

鳥の場合、睡眠はほとんどがノンレム睡眠です。レム睡眠は5%しかありません。そのため鳥は夢をあまり見ないと考えられています。

多くの動物が眠りにつく夜、ミミズクにとっては活動の時間です。獲物から姿を見られない夜にミミズクは狩をします。夜が明けるとミミズクは眠りに落ちます。そして夢を見ます。ミミズクの場合もノンレム睡眠の後にレム睡眠がおとずれます。ただし、ミミズクの眼球は固定されていて動かないため、レム睡眠の特徴である急速な眼球運動はみられません。目線をある方向から別の方向へ移すのにも頭全体を動かす必要があります。しかし、目を閉じれば眠ることができます。

哺乳類のレム睡眠の時間は鳥類の5倍です。この差に何か重要な意味はあるのでしょうか?高い知能を持つ動物には夢を見る能力があることが証明されています。定期的に深い眠りにおちる動物に睡眠の役割がいくつあるかはハッキリしていません。分かっているのは鳥類と哺乳類は夢を見るということだけです。

ゾウは非常に知能が高く優れた記憶力を持っていると考えられています。夢を見たり眠ったりする時間が長いことと何か関係があるのでしょうか?

人間は学習した後、十分な睡眠をとらないと覚えたことを忘れたり、他のことと混ざったりしてしまいます。ゾウにもそれと同じことが当てはまるのでしょうか?

眠りながら会話?

海洋哺乳類は脳を片方ずつ眠らせます。時々、海面に上がって呼吸するのを忘れないようにするためです。レム睡眠は一度にわずかな時間しか続きません。また海洋哺乳類は眠りながら会話をしていると考えられています。

フランスの科学者たちの研究によればイルカは夢を見るだけでなく、睡眠中に音を発していることが分かりました。その音はイルカの言語と見なされる音によく似ています。睡眠は潜在意識を解放することで、日々のストレスを解消する役割を果たしているのかもしれません。

睡眠中も成長

ホエザルの鳴き声は睡眠を邪魔しそうな音量ですが、家族はすぐそばで眠ることができます。赤ん坊も大音量の中で眠り、眠っている間にも成長していきます。

ノンレム睡眠中には成長ホルモンが分泌され体の発育を促します。そのため、母親は子どもが嫌がっても早く眠らせようとするのです。種によっては子どもが大人の3倍近く眠ることもあります。

健康で強く育つには十分な睡眠が欠かせません。子どもが小さいほど成長する必要があるため睡眠が極めて重要になります。睡眠の役割は休息だけでなく沢山あります。だからこそ、動物はそれぞれのサイクルで睡眠をとるのです。

哺乳類を対象にした最新の研究から、睡眠時間が増えると免疫力が高まることが明らかになりました。長い睡眠は寄生虫や病気をしりぞけるのに効果的だということです。睡眠は単なる休息ではないのです。

毎日の睡眠は動物にとって食事と同じく重要なものです。睡眠不足は飢えや乾きより大きなダメージを与えることもあります。あらゆる動物の活動は睡眠に左右されているからです。睡眠の謎はまだ解明され始めたばかりです。

LIFE STORIES SLEEPING FOR LIFE
(スペイン 2015年)

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