波力発電「海に眠るクリーンエネルギー」|夢の扉+

世界で6番目に広い海を持つ日本。その海の力を使い新時代のエネルギーを作り出そうと挑戦する男たちがいます。

日本の周囲に眠るのエネルギーは約3億キロワット。これは日本全体の発電所の能力をも上回ります。そんな眠れる資源を取り出そうとしているのが三井造船再生可能エネルギープロジェクトグループの中野訓雄(なかのくにお)さんです。

打ち寄せる波はどうして生まれるのでしょうか?その答えは。風が海面を揺らし、それが波となり海を伝わっていきます。それは海に囲まれた日本が持つ永久不滅のエネルギーです。それを地域地域で使える電力にしようと波力発電のプロジェクトが伊豆諸島の神津島で始まりました。

神津島の主な産業は観光と漁業。海の恵みで暮らしてきた人口2000人ほどの島です。神津島の電力は100%火力発電。しかし、不安を抱えていました。ディーゼルを回して発電しているためコストが都内の倍以上かかっているのです。今はそのコストを電力会社が負担しているため電気料金は本島と同じですが将来どうなるか分かりません。

そこで、目の前にある波で電力を作り島で使う様々な電気を賄おうという地産地消型の波力発電を日本中に広めるのが中野訓雄さんの夢です。プロジェクトが成功すれば永遠になくならない電力が手に入ります。

波力発電の歴史

実は波力発電は古くから世界中の科学者たちが実用化に挑んできました。1940年代に開発された航路標識用ブイが波力発電の始まりだと言われています。

1980年代には西表島で波の力を巨大な浮きでとらえアームから油圧モーターにエネルギーを伝えて発電するシステムが開発されました。ヨーロッパでは打ち寄せる波を利用した実験が行われました。それは波によって生じる空気の流れでタービーを回し発電するというもの。

世界中で競うように開発されてきた波力発電ですが、どれも本格的な商用化にはいたりませんでした。最大の原因はエネルギー変換効率。波の力を効率よく電気に変えることが出来なかったのです。

変換効率の壁を打ち破る

中野訓雄さんは設計士として世界の誰もが出来なかった変換効率の壁を打ち破ろうとしています。そうして設計した波力発電装置は、フロートと呼ばれる浮きが上下することで電力を生み出します。

仕組み

装置の内部で歯車を使い上下運動を回転運動に変換。これで直接発電機を回し電気を作る。

さらに、中野訓雄さんはある技術を加えることで発電効率を飛躍的に上げました。従来の技術ではフロートは波に乗るだけでエネルギーの多くを逃がしてしまっていました。これをコンピューターで制御し、波の力を一瞬ためることでエネルギーを最大限に取り込むことができます。この技術で17%が限界だったエネルギー変換効率を最大59%にまで引き上げました。

来年、全長40mの発電装置が設置される神津島。島の人たちは期待を寄せています。発電装置を1基浮かべれば島の5%の電力をまかなうことができます。イカの漁場でもあるその場所を使ってもいいと言ってくれた地元の漁師たちもまた、島の未来を案じていました。島の子供たちの未来を明るく照らして欲しいと中野訓雄さんに夢を託したのです。

装置が設置できない!?

しかし、プロジェクトに厳しい現実が待ち受けていました。現状の設計では設置が困難だと言うのです。計画では装置をクレーンで海に沈めて設置。この時、効率よく発電するためには上下の誤差は50cmしか許されません。しかし、施工業者によると海底の地形やチェーンがねじれただけでも、それ以上の誤差が生じてしまうというのです。

中野訓雄さんは、水中工事のエキスパートである村上舟美さんのもとを訪ねました。そして一つの答えが見つかりました。それは発電装置を2つに分割するというもの。

プランではまず下段を水中に設置。その後、上段を海に入れてボルトで接合。その接合部分で誤差を調整でき、精度の高い施工が可能になります。

2014年1月、10分の1スケールの発電装置を初めて海に設置する実験が行われました。しかし、分割した上段と下段は海の中で接合することが出来ませんでした。フロートの浮力が邪魔をして斜めになってしまったのです。

海での接合を諦め陸上で接合。波の力で発電が出来るか実験を行いました。すると波が低い日だったにも関わらずフロートは大きく上下。世界トップクラスのエネルギー変換効率を実現した中野訓雄さんの制御技術の威力が発揮されました。安定した電力を生み出せることも分かりました。

来年春にはこの10倍もの大きさの発電装置を神津島の海に浮かべます。

「夢の扉+」

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