脳刺激研究最前線 電気刺激で脳力アップ!|サイエンスZERO

tDCS(経頭蓋直流電気刺激)とは、頭蓋骨を通して電気を流す方法です。tDCSは世界中で研究されていて脳卒中の後遺症やうつ病に効くのではないかという報告が次々とあがってきています。本格的な研究が始まったのは15年前からですが、今や世界20か国以上で400を超える臨床試験が行われています。

 

リハビリに電気刺激!最新臨床研究

tDCS研究の中心地ドイツでは、最新の臨床研究がすすめられています。ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターで行われているのが、脳卒中の後遺症のリハビリにtDCSを活用する臨床研究です。

 

研究を指揮するのは神経内科医のフリードヘルム・フメル教授。フメル教授は2005年、tDCSの刺激で運動機能が上がったという研究成果を発表。現在、140人規模の臨床研究を行いtDCSをリハビリの一環として使えるように取り組んでいます。

 

私たちの脳は運動野という部分から信号を出し、神経を通じて全身に伝えることで体を動かします。ところが、脳卒中が起きると脳の一部が損傷し信号が伝わらなくなります。そこで、脳は代わりの迂回路を作り信号を通そうとします。しかし、この信号は弱いため体を思い通りに動かせません。これが脳卒中の麻痺状態です。

 

そこでこの運動野にtDCSを装着。電気刺激によって脳の活動を高め送り出す信号を増強させます。その結果、運動機能が向上すると考えられています。

 

弱い電気で脳の能力を引き出す!

tDCSを開発したライプニッツ労働環境人間工学研究所のミヒャエル・ニッチェ教授は、2000年にtDCSの脳への影響を初めて発表しました。のべ53人への試験から、運動野への電気刺激の前後で筋肉の反応に変化があらわれることを確認。微弱な電気が影響を与えるという結果は大きな注目を集めました。

 

tDCSの電圧は8~10ボルト。それだけでは刺激として弱く信号を出せません。ではなぜ、そんなわずかな電気で効果があるのでしょうか?

 

脳の神経細胞は刺激を受けると電位が上がりますが、この刺激が弱いとラインを超えず信号が出せません。ここにtDCSで微弱な電気を流すと細胞内の電圧が少し上昇します。いわば底上げをされた状態です。すると、先ほどはラインを超えなかった弱い刺激でも信号を出せるようになります。この仕組みが脳卒中の脳でも重要な役割を果たしています。

 

脳卒中では信号が出しにくい状態になっています。ここにtDCSの刺激で底上げをすると信号が出しやすくなりリハビリの効果が上がると考えられています。さらに、信号の量が増えるとその通り道も信号をより通しやすくなります。するとリハビリの効果もより上がるのです。

 

脳卒中のリハビリ以外にも!tDCSで脳の可塑性を引き出す

ハンブルク・エッペンドルフ大学医療センターでは、脳卒中のリハビリの他にも健康な高齢者の学習能力を上げようと取り組んでいます。加齢による学習能力の低下が脳の可塑性の低下で起こると考えているためです。

 

取り組んでいるのは機械の操作を学ぶ能力の向上です。tDCSが高齢者の脳の可塑性を向上させたと同時に高齢者でも学習能力が上げられることを示しています。

 

世界初の臨床試験!局所性ジストニア治療法開発に挑む

2016年1月から始まった局所性ジストニアの臨床試験。国立精神・神経医療研究センターの花川隆さんと共に取り組むのは上智大学理工学部の古屋晋一さんです。tDCSによる局所性ジストニアの治療効果を研究し、治療法としての確立を目指しています。

 

この臨床試験に大きな期待を寄せるのがクラリネット奏者の原浩介さん。原さんはクラリネットを始めた中学1年生から毎日長時間の練習を重ねてきました。ところが10年以上経ったあるとき、どうしても治らないくせがあらわれました。

 

通常、クラリネットを吹くとき指は上げ下げするだけなのですが、原さんの右手の薬指と小指は自分の意思と関係なく巻き込んでしまいます。まさに局所性ジストニアの症状でした。今では指の運び方や演奏表現を変えるなどの工夫を重ね、演奏に支障は出ていません。しかし、同じ病に悩む人の力になれればと考え臨床試験に参加しました。

 

脳は右脳と左脳に分かれており、体の右半身を左脳の運動野、左半身を右脳の運動野が制御しています。ただ局所性ジストニアの人の脳は、異常な変化が起き本人が意図しない動きの指令まで出ている状態です。

 

そこで古屋さんが注目したのは、脳梁という左右を繋ぐ部分。左脳と右脳の情報交換を行う役割があります。通常、情報は双方向に行き来しますが、正常な方の脳にプラスの電極、異常な方の脳にマイナスの電極をはると脳梁を通じて一方通行へ変わると考えられます。すると、正常な動きの情報が異常な方へと伝わります。つまり正常な動きがコピーされることで意図しない動きが抑えられるというのです。

 

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