低カリウムレタス 無農薬で2週間もシャキシャキの野菜作り|夢の扉+

TBSテレビの「夢の扉+(ゆめのとびらプラス)」で低カリウム野菜作りについて放送されました。機能性野菜とは特定の栄養素をコントロールしたもので、機能性レタスは1袋480円と高級にも関わらず店頭に並ぶと同時に売り切れる人気の商品です。シャキシャキの鮮度が2週間も保たれ無農薬です。これを作った会津富士加工の社長、松永茂(まつながしげる)さんは半導体の製造工場を経営していました。社員一同、農業は全くの素人でした。一体なぜそんな彼らが無農薬で2週間もシャキシャキのレタスを作れたのでしょうか?それは半導体工場ならではのノウハウがあったからでした。そのノウハウとは無菌状態。こうした状態で野菜を育てれば完全無農薬でもほぼ無菌の野菜となり鮮度が4倍以上保てます。さらに松永茂さんのレタスには世界でも類を見ない農業の常識を覆した特徴がありました。それは野菜を育てるのに必要不可欠な栄養素カリウムをほぼ与えずに育てていること。カリウムは植物が成長するさい、細胞が大きくなるのを手助けし光合成を助ける役目を果たしています。もしカリウムが足りなくなると葉は白くなり実りも悪くなり、やがて枯れてしまいます。つまりカリウムを減らしながら育てるというのは絶対的な矛盾を抱えた野菜作りなのです。松永茂さんは世界で初めてその量産化に成功しました。

 

リーマンショック後、大手電気メーカーが半導体の製造拠点を海外に移転。下請けだった松永茂さんの会社は倒産の危機に直面しました。約70人いる社員のうち30人を解雇しなければ会社はつぶれる状態でした。松永茂さんは会社を立て直すためあらゆる対策を講じました。そして最後に出した答えが半導体の製造をやめ、レタスを作ることでした。半導体一筋だった社員にとっては青天の霹靂。社員に不安が広がる中、挑んだのは当時世界の誰もできなかった低カリウム野菜の量産化。なぜ松永茂さんは困難な道を選んだのでしょうか?

 

東日本大震災で松永茂さんは重い腎臓病患者が避難所で支援物資の生野菜を食べられず苦しんでいると聞きました。実は腎臓病患者はカリウムの摂取量を制限されています。1日に許されているのは1500~2000mg以下。ところがカリウムはほとんどの食品に含まれています。特に生野菜や果物に多いです。リーフレタスのカリウムは100g当たり490mg。バナナは1本で400mgもあります。腎臓病患者の中には我慢できず果物をお腹いっぱい食べ救急搬送されるケースもあると言います。そんな切実な声を聞いて松永茂さんは難題である低カリウム野菜を作ることを決意しました。

 

秋田県立大学生物資源科学部の小川敦史さんはカリウムを与えずに野菜を育てる画期的な栽培法を編み出していました。それが「野菜をだます」こと。栽培の途中で与える栄養分をカリウムから性質の近いナトリウムにすりかえます。すると野菜はカリウムを吸っていると錯覚し成長を続けます。そして野菜がすりかえに気づくギリギリのタイミングで収穫するのです。この方法で小川さんは低カリウムほうれん草の栽培に成功。しかし、研究レベルでは成功していても量産化は難しかったのです。

 

低カリウム野菜の量産化を目指した時に役立ったのは半導体工場の管理技術でした。特定の栄養素をコントロールした野菜を作るには細菌の少ない環境が適しています。松永茂さんはそれなら半導体時代のものがそのまま使えると考えました。工場内に細菌を持ち込ませないためにはこれ以上ないほど適していました。しかも役立ったのはこれだけではありません。カリウムの少ないレタスを量産化するには均一に育てる必要があります。植物は常に空気が流れていないと生育にばらつきが出てしまいます。満遍なく空気を循環させるためにも半導体製造のために設置していた空調が役立ちました。半導体はわずかなホコリが不良品の原因となるため高性能な空調を整備していたのです。カリウムを減らしたレタスは成長が速過ぎても遅すぎても枯れてしまいます。そのため24時間365日、同じ環境で育てる必要がありました。ここで松永茂さんが目をつけたのは高性能の温度・湿度記録計。実は半導体製造は1分単位で温度と湿度を記録しています。わずか室温1度、湿度数%の違いが不良品の原因である静電気を発生させてしまうからです。松永茂さんはこれを使い室内の環境を常にコントロールし、レタスの成長スピードをすべて同じにさせました。さらに設備だけでなく社員の能力もそのまま活かすことが出来ました。半導体製造は肉眼では分かりづらい小さなミスを見つけるため顕微鏡を使い製品チェックを行っていました。このスキルが半導体の不良品を探すように野菜の葉や根のわずかな違いも見極めます。かつての半導体製造のノウハウを活かし出来ないと言われた野菜作りは出来るに近づきました。しかし、松永茂さんにはこだわりがありました。それは味。味を良くするため与える栄養分のバランスを変えて試行錯誤を繰り返しました。そして開発から1年半、ついに松永茂さんが求めるレタスが完成しました。味もさることながらカリウムの値は80%以上オフ。しかも細菌の少ない状態で育てられたためシャキシャキの鮮度は2週間も持ちます。

 

実は松永茂さんにはもう一つの夢がありました。それは低カリウムのメロン作り。甘さは変わらずカリウムを3分の1にまで下げました。松永茂さんが低カリウムメロンを作ろうとしたきっかけもまた、腎臓病患者の切実な声を聞いたからでした。松永茂さんはより多くの人たちに低カリウム野菜を届けるため他の製造業者にもその技術を伝えています。低カリウムレタスは今後、海外の腎臓病患者のために成田空港近くの工場でも作られる予定です。そしてトマトやイチゴ作りにも挑み始めています。