眠りのミステリー ~睡眠研究最前線~|サイエンスZERO

人生の約3分の1を眠って過ごす私たち。身近な睡眠という現象ですが、実は科学的にはほとんど解明されていません。

 

しかし、今ある物質の発見をきっかけに睡眠研究が飛躍的に進んでいます。

 

 

世界的発見!眠りをコントロールする物質とは?

筑波大学国際統合睡眠医科学研究機構の柳沢正史(やなぎさわまさし)さんは、睡眠の謎と20年近く闘い続けています。

 

柳沢正史さんが1998年に発見したのがオレキシン。オレキシンとはドーパミンなどと同じ脳内に信号を伝える神経伝達物質。このオレキシンが、睡眠に深く関わっていることが分かったのです。

 

オレキシンが分泌されるのは、脳の視床下部。神経細胞から分泌されたオレキシンは「起きろ」という覚醒の信号を出します。その受け皿であるオレキシン受容体にはまることで、初めて覚醒の信号が伝わります。

 

脳には覚醒を司る覚醒中枢と、睡眠を司る睡眠中枢があります。オレキシンの分泌が高まると覚醒中枢が活性化。すると、覚醒物質が脳全体に伝わり覚醒状態が作られます。

 

一方、オレキシンの分泌が足りないと覚醒中枢の働きが抑えられ睡眠中枢の働きが強まります。これにより眠りが誘導されるのです。

 

オレキシンの発見から次世代の睡眠薬誕生!

不眠症状を訴える人が4人に1人もいると言われる日本ですが、2014年に次世代の睡眠薬がオレキシンの研究から誕生しました。スボレキサントという化合物でできた新たな睡眠薬です。

 

従来の睡眠薬は脳全体の興奮を抑えることで眠りを誘います。一方の新薬は、スボレキサントがオレキシンが入るはずの受容体をふさぎオレキシンによる覚醒の信号が伝わらないようにします。そのため自然な眠りが促されるのです。

 

また、今まで特効薬がなかった過眠症ナルコレプシーの治療薬も開発が進んでいます。柳沢正史さんは長瀬博さんと共同で薬作りに挑んでいます。ナルコレプシーの患者は、日本でも10万人ほどいると言われています。強烈な眠気や急な脱力による事故を防ぐためにも治療薬がのぞまれていました。

 

病気の原因はオレキシンが欠乏していること。そのため覚醒状態をキープできないのです。そこで長瀬さんたちは、オレキシンの代役を作ることにしました。オレキシン受容体にぴったりとハマり、オレキシンと同様に覚醒の信号を出せる物質を作り出そうというのです。

 

まずは25万個の化合物から代役候補をリストアップ。そこに共通する構造を手がかりに2000個の薬を作ってみました。そしてついにオレキシンの代役となる化合物にたどりつきました。

 

2015年9月、新薬のプロトタイプが完成。オレキシンをコントロールすることで、睡眠をコントロールできる時代がもうすぐやってくるかもしれません。

 

世界初のプロジェクト 眠りの遺伝子大捜査

柳沢正史さんは、睡眠のおおもとに関わる遺伝子を探すという世界初のプロジェクトを立ち上げました。7000匹のマウスから睡眠に異常のあるマウスを見つけ、その症状の原因となる遺伝子を探すという途方もない試みです。

 

柳沢さんたちは4年間、毎日マウスの脳波や心電図を精密に記録し睡眠に異常のあるマウスを探しました。実験を始めて2年、睡眠に異常をきたすマウスを発見しスリーピーと名づけました。普通のマウスの睡眠量は10時間程度ですが、スリーピーはその1.5倍も眠るのです。

 

重度の過眠症のスリーピーを詳しく調べたところ、原因となる遺伝子をつきとめることに成功しました。人にも同じ遺伝子があるため、人の睡眠量を決める鍵になるかもしれないと現在も研究を深めています。

 

簡単に体内時計が分かる!最先端の睡眠医療!

国立精神・神経医療研究センターでは、三島和夫さんを中心に時計遺伝子と体内時計の関係について先駆的な成果を出しています。これまで一人一人の体内時計の差が寝起きのタイミングや睡眠障害にまで影響することを明らかにしました。

 

時計遺伝子は、睡眠と覚醒の周期だけでなくホルモン分泌や心拍数までも決めています。三島さんたちは時計遺伝子から体内時計の周期を簡単にはかる手法を開発しました。

 

必要なのはわずかな皮膚細胞だけ。そこに特殊な光る遺伝子を入れます。すると、時計遺伝子の影響下で光る遺伝子が発光。この時計遺伝子が光る量をはかることで体内時計の周期を導けるのです。

 

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