新たな脳梗塞治療~血管から脳細胞を再生させる~|夢の扉+

TBSテレビの「夢の扉+」で新たな脳梗塞治療について放送されました。「脳の細胞が死んだら二度と生き返らない」というのはカハールの呪いと言われています。1906年にノーベル賞を受賞した神経細胞学者サンティアゴ・ラモン・イ・カハールは「成熟した脳の神経細胞は死ぬことはあっても再生することはない」という説を提唱しました。その学説は約100年に渡り脳医学の常識とされてきました。しかし、そんな常識に真っ向から立ち向かっているのが田口明彦(たぐちあきひこ)さんです。脳梗塞は脳の血管がつまり、その先の神経細胞が壊死してしまう病気。半身麻痺、言語障害、視力障害などを引き起こし、最悪の場合死に至ることもあります。脳梗塞の新たな治療法を研究しているのが先端医療センター再生医療研究部の田口明彦さんです。

 

脳梗塞治療は時間との闘いです。発症から4時間半以内であれば血栓を溶かす薬が投与できます。しかし、必ずしも薬が効くとは限りません。脳の神経細胞は非常に弱く短時間で死んでしまいます。神経細胞が死んだ後では、リハビリに望みを託すしかありませんでした。脳の神経を再生させようという研究は近年始まったばかりです。一体なぜなのでしょうか?それはノーベル賞を受賞したカハール博士の「脳の神経細胞は死ぬことはあっても再生することはない」という学説にとらわれてきたからです。この常識が脳の神経を再生させようという研究を大きく遅らせる原因となったのです。しかし、成功例がないからといって常識にとらわれてはいけないと考えた田口明彦さんは、神経そのものではなく血管に目をつけました。血管を再生させ死んだ神経細胞の周りに酸素や栄養を送れば脳の神経機能が回復するのではないかと考えたのです。それまでの常識では考えられない治療法でしたが、田口明彦さんには勝算がありました。その根拠となったのは14年前に兵庫医科大学の相馬俊裕さんと一緒に行った臨床試験。扱った症例は抹消動脈閉塞症という手や足の血管がつまり末端まで血液が巡らず細胞が壊死してしまう病気です。いわば手足の脳梗塞。その治療で使ったのが造血幹細胞。血液のもとになる細胞で主に骨髄の中に存在しています。それを取り出し患者に注射したところ、どんどん血管が増え血流量も増えていきました。血液の元になる細胞がぐるぐると巡りながら血管を再生させていったのです。やがて壊死の進行は止まり組織の機能が回復。田口明彦さんは「これは脳でも同じはず」と確信しました。

 

そして研究開始から9年、2009年に臨床試験が始まりました。その一人目の患者となったのが藤川博志さん(72歳)です。藤川さんは重度の脳梗塞で左半身麻痺と言語障害があり、当初寝たきりになる可能性が高いと診断されていました。田口明彦さんは本人の造血幹細胞を使う臨床試験を提案。治療ではまず本人の体から骨髄液を抽出します。その骨髄液を分離液と合わせて遠心分離機にかけます。すると造血幹細胞を取り出すことができます。それを患者の体内に静脈注射で投与。血液のもとになる細胞が血管の中をぐるぐる巡るうちに血管が活性化していきます。実はダメージを受けた神経細胞の周りには神経の元になる細胞が現れることが分かっていました。しかし、それは新しい神経になる前になぜか生き残れずに死んでしまうのです。活性化した血管から神経のもとにきちんと酸素や栄養を送れば新しい神経になるのではないかと田口さんは考え、様々な実験を重ね臨床試験にのぞみました。藤川さんはこの治療後じょじょに回復。4ヵ月後には退院し、自分で歩いて帰ることができました。それから5年、藤川さんは今も月に1度、田口明彦さんの診察を受けています。藤川さんをはじめ症状の重い脳梗塞患者12人を対象にした臨床試験は6ヵ月後に自力で歩けるまでに回復した患者は9人にのぼりました。安全性の問題もありません。田口明彦さんの次の臨床試験はより多くの患者を対象にして来年行われる予定です。