巨大地震 見えてきた脅威のメカニズム|NHKスペシャル

NHK総合テレビの「NHKスペシャル」巨大災害MEGA DISASTER 第3集 巨大地震 見えてきた脅威のメカニズムが放送されました。

 

地下から探る巨大地震のメカニズム

東北大学の長谷川昭名誉教授と趙大鵬教授は長年、東北で起きる地震の発生メカニズムを研究してきました。科学者たちが過去100年の観測データから割り出していた東北沖の地震の震源は大小1300。どこで地震が起きるのか、ある程度把握できたと考えられていました。しかし2011年3月、予想もしていなかった巨大地震が発生。約2万人が犠牲になりました。震源は過去100年間、大きな地震が起きていなかった場所でした。ここを起点に南北500km、東西200kmの範囲がズレ動いたのです。長谷川さんたちは、これまでの研究を見つめ直し、改めて地震発生の謎の解明に取り組んでいます。力を入れてきたのが東北沖の地下の構造を明らかにすること。地震波で見えない地下を画像化する「地震波トモグラフィー」という手法です。地震波は地下の硬い所では速く伝わり、柔らかい所では遅くなります。このため地上への到達時間は差が生まれます。多くの地震波をとらえ続けることで硬い所とやわらかい所が立体的に浮かび上がり、地下の構造が見えてきます。巨大地震は太平洋プレートと上に乗っている陸側のプレートの境目で発生しました。境目を詳しく分析すると、表面にも硬い領域と柔らかい領域が見つかりました。2011年の巨大地震は硬い領域の中心付近でした。趙さんは過去の地震の震源を確かめることにしました。1978年に起きたM7.4の宮城県沖地震の震源もまた硬い領域でした。1994年に発生したM7.6の三陸はるか沖地震の震源もまた硬い領域でした。巨大地震の解明には硬い領域を詳しく調べることが重要だと分かってきたのです。プレート境界の硬い領域でなぜ大きな地震が起きるのでしょうか?その秘密が海洋研究開発機構が行った海底の調査から明らかになってきました。

 

海洋研究開発機構の小平秀一さんたちは特殊な装置を使って東北沖のプレート境界の構造を詳しく調べました。エアガンを使い人工的に地震波を発生させ、地下から反射してくる地震波をとらえました。そのデータを詳しく分析することで海底下のプレートの断面を詳細に描くことができるのです。すると巨大地震の震源付近の硬い領域ではプレートの表面が起伏に富んでいることが分かりました。小平さんたちが特に注目したのは地下20km付近に見つかった大きな山のような部分です。その高さは約2000mにもなります。こここそ巨大地震の震源の中心、まさに地震の発生地点だったのです。なぜ山のような構造がプレート境界に存在していたのでしょうか?その手がかりが東北沖の海底にありました。プレートが沈み込む日本海溝の右側にある太平洋プレートの表面には山や無数の凹凸があります。小平さんはこうした海底の凹凸が形をとどめたまま陸側のプレートの下に沈み込んだと考えています。巨大地震の震源から見つかった山のような構造が強くかみ合い、大きな歪みをためていたと考えられるのです。

 

巨大地震 発見された引き金

プレート境界の山を動かし巨大地震を発生させたものは何なのでしょうか?その謎を解く鍵が東北沖の海から見つかりました。東京大学・大気海洋研究所の佐野有司教授は深海の水の循環を研究するため巨大地震の前から海水を採取していました。そして巨大地震の1ヵ月後、いつものように海水の成分を調べた時のことです。震源近くの海底の水から、それまでほとんど見られなかった物質が大量に見つかったのです。それはヘリウム3という物質でした。ヘリウム3はプレートの下のマントルに大量に存在すると考えられています。そのヘリウム3がなぜ海底の水に大量に含まれていたのでしょうか?佐野さんは地震との関係を疑いました。日本列島の下にあるマントルからヘリウム3を含んだ水が数万トン、地震に伴って海溝域に放出されたと考えています。これには東北大学の長谷川さんたちも驚きました。長谷川さんはこの水が巨大地震発生の引き金を引いたのではないかと考えています。膨大なひずみをためていた東北沖のプレート境界にマントルからの水が長い時間をかけて徐々に染み込んでいきました。震源付近にあった山にも水は達していたと考えられます。硬くかみ合っていたプレート境界の隙間に水が満たされ、プレート境界が滑りやすくなり巨大地震が発生したというのです。

 

プレートを動かす地球の巨大メカニズム

46億年前、誕生したばかりの地球は小惑星の相次ぐ衝突で地表は高温のマグマに覆われていました。その後、数億年かけて徐々に冷えて固まりプレートが誕生。ゆっくりと動き始めたと考えられています。現在、地球には12枚のプレートがあり、それぞれが一定の方向に動き続けています。プレートが動き続ける原動力は何なのでしょうか?その謎の解明に取り組んでいるのがダブリン先端技術研究所のセルゲイ・レベデフ助教授です。プレートが動きながら変化していることを地震波トモグラフィーで捉えました。太平洋プレートは東太平洋から日本へ向かっていく間にプレートは厚みを増していきます。プレートは海水によって表面から冷やされていきます。時間の経過とともにプレートのすぐ下のマントルも次第に冷やされ、プレートと一体化していきます。こうしてプレートは厚みを増し重くなっていきます。当初、厚さ数キロだったプレートは1億数千万年かけて日本に到達する頃には、厚さは90kmにもなっていました。プレートが重くなって沈み込むことでプレート全体が引き込まれるように動いてきたのです。さらにプレートは沈み込んだ後も地球内部に大きな動きを生み出します。プレートの落下が、地球内部の大循環を引き起こしていると考えられています。

 

巨大地震が多発するプレートの謎

巨大地震が多発する南米チリ。チリでは1960年、M9.5という観測史上最大の巨大地震が発生しています。この時の津波は22時間後、1万7000km離れた日本にも到達。東北の沿岸では高さ6mの津波が押し寄せ142人が犠牲になりました。チリのプレート境界ではここ100年、実に9回もの巨大地震が発生しています。なぜこれほど大きな地震が相次ぐのでしょうか?ドイツ地球科学研究センターのマルコス・モレノさんは、チリのプレート境界にどれほどの力がかかっているのかGPSで地面の動きを分析しました。チリのプレート境界ではナスカプレートが沈み込む力でひずみがたまります。チリのプレート境界にひずみがたまりやすい理由は地下の構造にあります。プレートの沈み込む角度には違いがあります。チリのナスカプレートは約10度の角度で沈み込んでいます。一方、太平洋プレートは東北沖では40度、マリアナ海溝では80度で沈み込んでいます。ナスカプレートはとりわけ角度が浅く、この浅さが歪のたまりやすさに繋がっていると趙さんは考えています。沈み込む角度が浅いほど、プレート同士が接する面積が広くなります。角度が浅い方が多くの歪がたまるため巨大地震が起こりやすいと考えられるのです。

 

南海トラフ巨大地震 見えてきた脅威

地震を生み出す歪がたまりやすい角度の浅いプレート境界は日本にもあります。南海トラフです。南海トラフにはフィリピン海プレートが沈みこんでいますが、その角度は10度。チリと同じ極めて浅い角度です。南海トラフで最後に巨大地震が起きたのは1946年。チリとは違い長い間発生していないのです。次の巨大地震はいつ起きるのか、それを知る手がかりの一つがGPSのデータです。特に歪が集中しているのが四国の南東沖と東海沖です。

 

プレートが動き続ける限り避けることのできない巨大地震。私たちは今、その本当の姿を少しずつとらえ始めています。地球と共に生きていくために地震を生み出す脅威のメカニズムを解き明かさなければならないのです。