エルガーの変奏曲「謎」|ららら♪クラシック

「謎」はこうして生まれた

変奏曲「謎」誕生のきっかけは、エルガーとその妻アリスのたわいないやりとりでした。ある秋の夜、エルガーが何気なく奏でたメロディーをアリスが「素敵ね」と褒めたことで、彼はちょっとした遊びを思いつきました。

 

メロディーを即興で演奏して「これ誰のことだと思う?」と謎かけを始めたのです。答えはヒュー・デーヴィッド・スチュワート・パウエルでした。デーヴィッドは夫婦の友人でアマチュアのピアニスト。彼のとても神経質な性格を音楽で面白おかしく表現したのです。次の答えはウィリアム・ミース・ベイカーでした。活動的な性格の彼は、言いたいことだけ言ってドアをバタン、そんな様子を描いたのです。

 

こんなユーモアたっぷりの謎かけから生まれた変奏曲「謎」は、個性豊かな友人たちを描いた音楽による肖像画だったのです。エルガーはこの曲について、小さな謎と曲全体に隠された大きな謎があると説明。小さな謎とはこの音楽によるなぞなぞのことでした。

 

タイトルのミステリアスなアルファベットは、妻や友人たちのイニシャル。中にはあだ名もあり、どの曲が誰のことなのかすぐに答えは明かされました。ところが、1曲だけ「***」というタイトルの曲が。長らくある貴族令嬢と言われてきましたが、実はエルガーの初恋の人なのではないかという説も有力です。

 

そして、もう一つの大きな謎が。エルガーは全体を通しての主題があるが演奏されないとも述べています。しかし、答えはいまだに迷宮の中です。

 

「謎」を知る男

イギリスの地方都市で音楽を教えながら地道に作曲を続けていたエルガー。一流の作曲家を夢見るものの、長く不遇の時代を送っていました。

 

エドワード・エルガー

 

そんなエルガーの才能を見出したのが、ロンドンの楽譜出版社の社員イェーガーです。意気投合し、共に大好きなベートーベンやブラームスについて熱く語り合った二人。イェーガーは時にエルガーの作品に厳しい批評と的確なアドバイスを与えました。このイェーガーこそ、大きな謎を知る男であり、変奏曲「謎」の誕生に深く関わった人物です。

 

エルガーがつけたタイトル「創作主題による変奏曲」にイェーガーがダメ出し。変奏曲「謎」と変更させました。さらに、渋るエルガーを説き伏せ、フィナーレを作り直させました。エルガーは100小節も書き足し、堂々たるエンディングに仕上げたのです。その結果、変奏曲「謎」は大成功。エルガーは42歳にして一流の作曲家の仲間入りを果たしたのです。

 

エルガーが大切な友イェーガーを描いたのが第9変奏「ニムロッド」です。ニムロッドとはエルガーがイェーガーのことを親しみを込めて呼んだあだ名です。この曲は現在のイギリスでは戦没者の追悼など、慰霊を目的とした式典に欠かせない曲となっています。

 

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エルガーの変奏曲「謎」

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