ダークマター 宇宙最大の謎の驚きの新説に迫る!|サイエンスZERO

今、宇宙の研究者たちの間で最大の謎となっているのが「ダークマター(暗黒物質)」です。質量があるものの目で見ることは出来ないという謎の物質です。宇宙はこのダークマターで満たされていることが分かったのです。その正体をつかもうと研究者たちは必死になっています。

 

 

ダークマターは確かに存在する!

地球から約250万光年の所にあるアンドロメダ銀河を調べたところ、不思議な現象が発見されました。それは銀河の回転速度です。

 

回転する物質には遠心力が発生します。この遠心力と内側に引っ張る星の引力が拮抗することで、星は銀河の中にとどまっていると考えられています。しかし、アンドロメダ銀河の回転速度を調べてみると、理論上よりも速く回転していることが分かりました。これだけスピードが速いと遠心力が大きくなり、星が銀河の外に飛び出してしまうはずです。

 

なぜ飛び出していかないのか?科学者たちが出した結論は、銀河の中に目に見えない物質があって、強い重力で星を引っ張っているということでした。この物質を「ダークマター」と名付けたのです。

 

その後の観測などから、宇宙には星や銀河などの目に見える物質の全てを合わせた質量の6倍もの量のダークマターが存在することが判明しました。

 

WIMPが捉えられない

宇宙を形作る数多くの物質は、全てビッグバンによって生まれました。ダークマターの候補物質であるWIMPもビッグバンによって作られたと考えられています。

 

スイスにあるCERN(欧州原子核研究機構)では、大型加速器を使って光速近くまで加速した陽子同士をぶつけてビッグバン直後の高エネルギー状態を作り出そうとしています。この実験によって確認されたのはヒッグス粒子です。これと同じようにWIMPも作り出せると研究者たちは考えていました。しかし、実験を開始してから5年以上経った今もその痕跡は見つかっていません。

 

日本でもWIMPの検出を目指したプロジェクトが進行中です。XMASS実験です。高さ5メートルの水槽の中心部に実験装置があり、液体のキセノンという元素で満たされています。キセノンの原子核の質量は、想定されたWIMPの質量とほぼ同じです。そのため飛び交っているWIMPがキセノンの原子核に衝突するとエネルギーが光となって現れます。このかすかな光をとらえようというのです。

 

ところが、観測を始めてから5年が経った今でもWIMPの痕跡をつかむことはできません。研究者たちは、ここまで探しても見つからないのはWIMPの仮説が間違っているからではないかと思い始めています。

 

強い相互作用をするダークマターとは?

2015年7月、東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構の村山斉さんの研究グループは、ダークマターの正体について新たな論文を発表しました。それが「強い相互作用をする質量のある粒子」という意味のSIMPです。

 

WIMPは、相互作用をほとんどしない素粒子の一種だと考えられています。一方、SIMPは素粒子が組み合わさってできた複合粒子です。この大きさの違いが相互作用の強さの違いに繋がると言います。

 

実は、ダークマターの正体がSIMPだと仮定すると、これまで解決できなかった宇宙の謎を説明することができると言います。それが薄く広がった形をした矮小銀河の謎です。矮小銀河は天の川銀河の100分の1以下の星しか持たない小さな銀河です。

 

実は、ダークマターがWIMPだと仮定してシミュレーションを行うと矮小銀河ではダークマターが中心に集中することが分かりました。WIMPは相互作用をほとんどしないため、お互いにぶつかることもなく、重力でどんどん集まってきます。その結果、ダークマターが中心に集まるのです。実際の矮小銀河の形と比べるとだいぶ違います。

 

一方、SIMPの場合は粒子が大きいのでぶつかって反発します。そのためダークマターが中心から薄く広がるのです。実際の矮小銀河の形をうまく説明できるのは、SIMPであることが分かったのです。

 

リサ・ランドール博士に聞くダークマター新説

ハーバード大学のリサ・ランドール博士たちは、95%ほどのWIMPの他に5%程の別の種類のダークマターが存在すると考えました。そのダークマターとはプラスとマイナスの電磁気力のようなものを持った2種類の粒子です。

 

私たちの世界で電磁気力を持った粒子といえば陽子と電子が代表的なものです。陽子と電子は相互作用をして原子を作ります。ランドールさんは、もし電磁気力のようなものを持つ2種類のダークマターがあるならば同じようにダークな原子を作ると考えました。

 

ランドールさんたちが考えたダークディスクは、ダークマターが作る目に見えない銀河だと言います。私たちの世界では物質を構成する原子が相互作用によって集まって星ができ、それがさらに集まることで銀河を形成します。もしダークマターも原子のような性質を持っているならば同じに集まり、やがて銀河のような円盤状になるはずだと言うのです。

 

このダークディスクは、天の川銀河の銀河面に存在すると言います。違うのは薄さ。ダークマターは陽子の100倍の重いと考えられているので、その重力でつぶれ薄くなっているのです。このダークディスクもまたWIMPだけでは説明できない銀河の形の謎を説明できると言います。

 

実はダークマターがWIMPだけだと仮定すると相互作用をしないため中心部に集まります。その結果、星も銀河の中心に集中し、中心部分はひときわ明るく輝くはずです。しかし、実際の天の川銀河の星はダークマターがWIMPだけと想定した時ほど中心部に集中していません。もし、WIMPの他にダークディスクが銀河面にあると仮定すると、この重力が星を中心部だけに集中させることをさまたげ天の川銀河に近い形を作ることが出来るというのです。

 

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