血液の不思議 ~知られざる驚異の力~|地球ドラマチック

人間の体は驚きに満ちていますが、中でも血液は神秘的な存在です。猛スピードで体内を巡り酸素や栄養を運び、病気のリスクと闘っています。血液の半分の量を失えば人は死に至ります。

 

昔から人は血液に怪しい妄想を抱いてきました。死を遠ざけ若さを甦らせる力があるのではと考えたのです。

 

 

酸素を運ぶ

血液の色の変化のもとは血液の中にある赤血球です。人の体内には約20兆もの赤血球が含まれていて、毎秒新たに1700万個が作り出されています。息をするたびに赤血球が酸素と結びつき、鮮やかな赤い色に変わります。そして、血管を通り体の隅々に酸素を配ります。

 

しかし、その働きには限界があります。それぞれの赤血球はある一定量しか酸素を運べないからです。赤血球が全て酸素を結びつけば飽和状態です。どんなに深く呼吸しても、もう酸素は取り込めません。では、どうすれば血液がとりこめる酸素の量を増やせるのでしょうか?

 

1、心臓や肺の機能を高める
2、赤血球の数を増やす

 

貧血の治療薬には、赤血球の数を増やす作用があります。しかし、薬には副作用があるため運動選手の場合、使用が禁止されています。

 

代わりに役立つのが高地でのトレーニングです。標高が高く酸素が薄い場所では、それを補うために人の体がより多くの赤血球を作り出そうとします。高地トレーニングは、運動能力を高めるには効果的な方法です。

 

血液が運ぶのは酸素だけではありません。

 

栄養を運ぶ

私たちが食事のさいに摂る糖や脂肪なども、血液によって全身に運ばれます。血漿は血液の半分以上を占め、摂取した食べ物から様々な栄養分を吸収し全身に送り届けます。血漿の働きによって、私たちの体は筋肉を動かしたり新たな組織を作ったり、余分な脂肪を蓄えたりするのです。

 

血液の中には食べ物から吸収した様々な物質が含まれています。つまり、栄養価が高いということです。自然界に人間の血を狙う生き物が沢山いるのはこのためです。

 

血液が酸素と栄養を全身に送り届けるには、そのための通り道が必要です。

 

全身を循環する

昔の人は血液が循環することを知りませんでした。古代ローマでは、血液は体の中心部で毎日作られ手足に向かって流れた末に消滅すると考えられていました。この考え方は1000年以上も続きました。

 

17世紀になって、初めて血液が体を循環しているという全く新しい説が唱えられました。先駆けとなったのは、医師のウィリアム・ハーベイ。ハーベイは、動物の臓器を使って実験を行い人の血液が日々新たに作られているという説に矛盾があることを示しました。

 

ウイリアム・ハーベイ

 

ハーベイの時代から400年、現代の私たちは血液が全身を流れる様子を詳細に確かめられるようになりました。

 

体を防衛する

体が傷つけられると血液はすぐに反応します。感染症や怪我に対する最初の反応として、体はまず攻撃されている場所の血流を増やし白血球を集めます。

 

白血球は体を病原体などから守る免疫システムの要です。健康な大人の体には約400億個の白血球があり、細菌やウイルスなど侵入してくる微生物と常に戦っています。

 

血液は驚くほど速く流れています。平均して1分間に1回、心臓と手足の間を往復します。しかし、そのような猛スピードでは体が傷ついた時に血液が大量に流れ出てしまいます。

 

人の体内にある血液は5リットル程度。多量の出血は命に危険を及ぼします。実はそのような事態を防ぐ仕組みが血液の中に備わっています。

 

体を治癒する

血液は体の外に出たとたん形を変えます。血小板は普段は目立った働きをしませんが、どこかの血管が破れると途端に動き出します。まず血小板同士が集まり、血管の穴をふさいで血液が流れ出るのを食い止めるのです。

 

血液の能力はこれだけではありません。昔から人は血液が病気の治療や若返りに役立つと信じてきました。

 

16世紀ハンガリーの伯爵夫人エリザベート・バートリーは、美貌を保つために多くの少女を殺し、新鮮な血を体に浴びました。

 

エリザベート・バートリー

 

こうした伝説にヒントを得て19世紀に書かれたのが「吸血鬼ドラキュラ」の小説です。小説に描かれたドラキュラは、人の血を吸って若返り白髪の老人から黒髪のたくましい青年に変身しました。

 

しかし、血液が人の若さと関係するというのは単なる伝説ではないかもしれません。最新の科学もまた、血液の状態が体の能力を左右することに注目しています。きっかけとなったのは2匹のネズミでした。

 

1970年代、1歳のネズミと3ヶ月のネズミを手術で結合させるという気味の悪い実験が行われました。若いネズミの血液が年をとったネズミの体に流れるようにしたのです。その結果、年をとったネズミが驚くほど元気になりました。しかし、研究はそれ以上進まず中止されました。

 

ところが、最近になって事情は大きく変わりました。この10年、血液による若返りという医学の研究領域が再び関心を集めるようになっています。きっかけは、幹細胞の研究です。

 

血液の様々な細胞は、全て幹細胞から作られます。この幹細胞が老化による病気の治療にも役立つと考えられています。幹細胞は様々な細胞に成長することができ、体を修復し維持する力を持っています。年をとると若い人に比べて幹細胞の働きが鈍くなることが知られています。

 

血液は人の体に備わる奇跡の力です。酸素や栄養を運び、全身をくまなく巡り病気や怪我と戦い、傷ついた体を修復します。危険を予測し先回りして準備することもできます。血液が人の体を若返らせるという新たな可能性も浮かび上がりました。血液に関する研究は今後も興味深い発展をとげることでしょう。

 

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