水星の素顔に迫る|サイエンスZERO

水星は、早朝や夕方のごく限られた時間にしか観測できないため謎の多い惑星でした。

 

今、この水星が研究者たちの注目を集めています。きっかけとなったのが、探査機メッセンジャーでした。実に40年ぶりの探査で、水星のミステリーを次々と明らかにしています。

 

マリナー10号

太陽系の惑星を探索するため、1962年に始まったアメリカのマリナー計画。火星や金星への探査は何度も成功し、次は水星へという機運が高まっていました。しかし、水星に探査機を送りこむのは火星や金星に比べて段違いに難しいのです。

 

一般的に地球の重力を振り切った段階では、探査機は秒速30kmで太陽を回っています。火星の軌道に入るにはあと秒速3km分だけ加速します。一方、水星へ向かうには速度を落とすため逆噴射をする必要があります。この時下げるスピードは秒速7km分。つまり、水星に向かうには火星に向かう時の2倍以上のエネルギーが必要なのです。

 

ジュゼッペ・コロンボは、スイングバイという方法を考案しました。マリナー10号は、地球を離れて自力で秒速3km減速。そして金星に接近して減速スイングバイを利用し打ち上げから4ヵ月後の1974年3月に水星に接近することに成功しました。しかし、撮影できたのは水星の4割ほどでした。

 

探査機メッセンジャー

2004年8月、水星の詳細な観測を目指してNASAの探査機メッセンジャーが飛び立ちました。マリナー10号から30年が経っていました。

 

水星と同じ軌道に入るために、メッセンジャーはとても複雑な軌道を選択。打ち上げ後、まず接近したのは地球です。地球の前方約2300kmを通過して減速スイングバイ。軌道を内側に修正しました。

 

次に金星の前を2回通過し内側へ。さらに、水星を使って減速スイングバイを3回。水星の周回軌道にじわじわと近づいていきました。

 

そして2011年3月18日、ついにメッセンジャーは水星と同じ軌道に入りました。史上初めて水星の周りを周回することに成功したのです。

 

打ち上げから7年、実に79億キロの道のりを経て到達しました。

 

水星には氷が!

撮影した水星の画像は25万枚以上。そして水星の北極や南極には水が氷の状態で何十億年も閉じ込められていることも分かりました。

 

氷の存在をとらえたのは、水星表面の物質を調べるための中性子エネルギー測定装置。極付近のクレーターの中で大量の水素原子を発見しました。これは数千億トンもの氷があることを示しています。

 

水星のミステリー

水星には研究者たちを長年悩ませてきたミステリーがありました。金星や火星では地球のような磁場は作られていません。しかし、マリナー10号によって水星には磁場があることが分かったのです。ところが、マリナー10号のデータには疑問の声が上がりました。

 

地球の場合、内部ではドロドロに溶けた鉄が対流しています。この対流が磁場を生み出すと考えられています。ダイナモ理論です。

 

水星に磁場があるのなら、内部には溶けた鉄などの液体が存在するはずです。しかし、水星のような小さな天体は常に冷えていて内部は固体だというのが常識だったのです。

 

マリナー10号が観測した磁場は何だったのか、多くの科学者を巻き込んだ論争となりました。

 

水星の磁場

メッセンジャーは周回軌道を飛び綿密に磁場を計測しました。すると、磁場は南北の極から吹き出していることが分かりました。これは残留磁場ではなく、水星自体が磁場を生み出している証拠です。

 

ダイナモ理論を考えると、水星の内部は冷えて固まっておらず活発に活動している可能性が高まってきたのです。さらに、磁場の中心は水星の中心より20%北にズレていました。どうしてズレているのか、新たな謎が生まれたのです。

 

ベピ・コロンボ計画

2016年に打ち上げが予定されているベピ・コロンボ計画は、ヨーロッパと日本が共同で2機の機体を打ち上げます。

 

ヨーロッパが準備している探査機はMPO。表面の観測に加え、メッセンジャーでは難しかった水星の内部構造を明らかにするのが目的です。

 

一方、日本が担当するのがMMO。なぜ水星に磁場があるのか水星の周辺環境を観測する予定です。

 

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