予言者ノストラダムスの謎 不安と恐怖の400年|幻解!超常ファイル

NHK総合テレビの「幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー」で予言者ノストラダムスの謎(2)不安と恐怖の400年が放送されました。前回の放送は>>予言者ノストラダムスの謎 秘密の生涯に迫る

 

ノストラダムスの死から28年経った1594年、予言者のイメージを大きく膨らませる本「フランスのヤヌス・第1の顔」がフランスで出版されました。ノストラダムスをヤヌス、つまり過去と未来の間に立ち2つの顔で歴史を眺める神に喩えています。筆者はノストラダムスの弟子ジャン・ド・シャビニー。彼はこの本で師匠の予言集の記述とその死後に起きた大きな出来事を照らし合わせました。その結果、ノストラダムスの死後に実際に起きた事件について250以上の予言で見事言い当てているとシャビニーは判定。例えば第6巻11には「7つの小枝が3つに減らされるだろう 最も年上の者たちが死に襲われるだろう 2人は兄弟殺しに魅惑されるだろう 眠りに落ちた陰謀者たちは死ぬだろう」と書かれています。これはノストラダムスの死後に起きた国王アンリ3世と兄弟たちの急死や争いに関する予言だとシャビニーは解釈。まさに予言通りの出来事が起きたと主張しました。しかし実際は権力者の兄弟争いはいつの時代にもありうるもの。シャビニーは手近な事件に予言を当てはめただけだと言われています。シャビニーはノストラダムスに最も近い弟子だったので、自分こそ一番師匠の意図を理解しているという自負があったのでしょう。彼が予言の一つ一つを解釈して、当時の人々が「当たっている」と話題にしたことでノストラダムスは伝説の天才予言者になったのです。さらに、こうした弟子や信奉者たちは生前にはなかった逸話まで語り始めるように。ある日、街角で若くて貧相な修行僧に出会ったノストラダムスは、彼の前で跪き「あなたはやがてローマ法王になるでしょう」と祈り始め、修行僧は後にローマ法王シクストゥス5世になったと言います。しかし、このような逸話の数々はいずれもノストラダムスの生前に確かな記録はなく、後世の創作と言われています。

 

ノストラダムスの評判が高まると予言の解釈に取り組む人が次々に登場。解釈本も増えていきました。ノストラダムス関連本は死後200年以上を経て、出版数が突如増加する時代があります。まず1790年に増加していますが、この前年1789年にはフランス革命が勃発し、王侯貴族が支配する世の中が大きく揺らぎ始めました。そして次に増加したのが1800年ですが、この前年1799年にはナポレオンがクーデターを起こしています。英雄の登場に不安と期待が高まっていました。その次に増加した1812年はナポレオンがロシア遠征で惨敗。フランスはこの後急速に転落していきました。大きな事件によって先行きが見えない不安の時代になるとノストラダムスブームが起きていたのです。そして20世紀前半の最大のブームは1939年。この年、第二次世界大戦が勃発。ドイツの指導者アドルフ・ヒトラーと彼が率いるナチ党の一部は神秘主義に傾倒。大予言者ノストラダムスの名声を使ったオカルト戦術を展開しました。敵国フランスを上空から爆撃し、予言詩の一説を印刷したビラをばら撒きました。その予言詩とは第6巻34「空飛ぶ炎の機械が包囲された人々の偉大な司令官を悩ましにやってくる 内部の扇動はすさまじく打ち砕かれた人々は絶望に陥る」です。ドイツ軍の爆撃によってフランス人の団結心が砕かれるのは運命付けられていると不安を煽る作戦でした。さらにドイツ軍は占星術師カール・エルンスト・クラフトを起用し、新たなノストラダムス解釈本を書かせました。予言集のうち35の詩を取り上げ、ノストラダムスが歴史上の事件をことごとく言い当てていること、そしてドイツの敵であるイギリスが敗北し崩壊していくこともすでに予言されているのだと記しています。この本は6ヶ国語に翻訳されヨーロッパ各国でドイツのプロパガンダとして広められました。

 

これに対してイギリス側も対抗策をとっていたことが近年明らかになりました。占星術師ルイ・ド・ウォールはイギリス政府の要請を受け数々の本を作成。その中の一つ「ノストラダムス 大戦の行方を予言」にはノストラダムスの予言詩がドイツ敗北を予言していると書かれています。本には「木星がかに座に入り大きな袋は彼を選出したことを嘆くだろう ヒスターの破滅が近づく」という詩が書かれていますが、この詩はノストラダムスの予言詩には存在しません。ドイツにとって不吉な内容に説得力を持たせるため占星術に基づいてウォールが創作したと言われています。死者3000万人以上、空前の恐怖と不安の最中に大国同士がノストラダムスの名を用いて宣伝合戦を行っていたのです。その結果、ノストラダムスは世紀の大予言者として20世紀によみがえりました。

 

戦後人類は自らを絶滅させる力を手にしました。アメリカとソビエトによる東西冷戦は核ミサイルのボタン一つで地球が破滅するという恐怖で人々を覆いました。そして1973年、ノストラダムスはついに日本に上陸。五島勉があらわした「ノストラダムスの大予言」です。ヨーロッパでは注目されてこなかった1999年7の月の詩を人類滅亡の予言として解釈し、センセーショナルな話題を呼び累計240万部の大ベストセラーとなりました。出版された1973年は高度経済成長で明るい未来を描いていた日本を第一次オイルショックが襲い経済は大混乱に陥っていました。また公害などによる環境破壊は深刻な問題となり日本は先行きの見えない不安の時代へとすでに突入していたのです。1999年人類滅亡のイメージは様々なメディアで取り上げられ予言の恐怖と現実社会の不安が負の連鎖となって人々をさらなる不安へと導いていきました。

 

フランス・リヨンに住むノストラダムス関連書籍研究家のミシェル・ショマラのもとに1989年、予言書を調査したいと日本人がやってきました。それはオウム真理教の麻原彰晃(あさはらしょうこう)自分が救世主として記されている予言詩がないか調べたのです。しかし、自分の名前を見つけることは出来ず諦めて帰国したと言います。ノストラダムスは人間の不安に対するひとつの答えです。人間は常に自分が将来どうなるのか不安を抱き、何かにすがろうとします。そのため大きな社会変動のたびに未来を見通すノストラダムスが引き合いに出されブームがやってくるのです。ノストラダムスは時代を超えて人間を映し出す現代性をもった存在なのです。