ブリューゲル「子供の遊戯」|美の巨人たち

テレビ東京の「美の巨人たち」でピーテル・ブリューゲルの「子供の遊戯」について放送されました。「子供の遊戯」は縦118cm、横161cm、樫の木の板に描かれた油彩画です。画面いっぱいに溢れているのは元気いっぱいに遊んでいる子供たちの姿。その数254人。青や赤、黄色などカラフルな衣装を着て子供たちが遊びに興じています。描かれた遊びの数は91種類。ブリューゲルは優れた観察眼と筆さばきで子供たちの姿を生き生きと描写しました。

 

16世紀、スヘルデ河によって海と結ばれたアントワープは国際貿易港として繁栄の最盛期にありました。ピーテル・ブリューゲルがいつどこで生まれたのか正確には分かっていませんが、ヤン・ファン・エイクやヒエロニムス・ボスなどが活躍した北方ルネサンス、ネーデルランド絵画は西洋美術の歴史に名を残す一大拠点でした。ブリューゲルがその影響を受けたのは間違いないでしょう。美を追求したイタリアの南方ルネサンスに対し、彼らが追求したのは現実。日々の暮らしの中にある日常や習慣です。中でもブリューゲルは最も現実と向き合った画家です。「子供の遊戯」はそれまでアントワープで銅版画の下絵画家として活躍していたブリューゲルが油彩画に変更して手がけた初期の作品です。「子供の遊戯」は様々な解釈がなされてきました。例えば当時ネーデルランドを支配していたスペインからの解放をイメージしたという説、大人の愚行の縮図でもあるという説。その論拠となったのが子供たちの顔でした。彼らの多くは子供っぽくなく笑っていません。

 

ところが、森洋子さんは大人の愚行説に真っ向から反論しています。森さんは一つ一つの遊びに意味があると考えています。大勢が一人の髪の毛を毟っていますがイジメではありません。子供たちのルールにのっとった遊びなのです。咥えたナイフを口から落とし地面に突き刺すことが出来るか競っている子供もいます。これは刃物の危険さと扱い方を学んでいるのです。子供は遊びの中で人との繋がりを知り、やれること、やってはいけないことを学びます。ブリューゲルは「子供の遊戯」で遊びが子供の成長においていかに大事なものであるかを描いたのです。ではなぜ子供たちは笑っていないのでしょうか?それは子供は真剣に遊んでいる時に笑顔にはならないからだと言います。

 

一つ一つの遊びは一見バラバラに見えますが、実は関連を持って配置されています。例えば左下に描かれているのは子供の誕生を祝う洗礼ごっこ。その近くに描かれているのはおかゆ遊び。これは離乳食を意味しています。さらに、おまる遊びも描かれています。またその後ろには子守ごっこが描かれています。ブリューゲルは成長に合わせた遊びを巧みに配置することによって子供たちの遊びに関連性を持たせています。

 

また「子供の遊戯」は対角線の構図をなしています。対角線が交わる中心に描かれているのが花嫁行列ごっこです。この花嫁役の少女はブリューゲル晩年の傑作「農民の婚宴」の花嫁に似てます。ブリューゲルは「思いっきり遊び友達を作って下さい。めいいっぱい楽しんで世の中のルールを知ってください。やがて結婚し親となってください」と言いたかったのかもしれません。だからこそ対角線の交わる絵の中心に花嫁行列ごっこを描いたのかもしれません。