飛ばないテントウムシ 夢の生物農薬|サイエンスZERO

2014年6月、画期的な農薬が発売されました。それはテントウムシ。害虫のアブラムシを食べてもらおうというのです。このように生物を使う農薬を「生物農薬」と言います。

 

 

アブラムシの問題点は植物の汁を吸うことと、ウイルスによる病気を媒介することです。農薬として注目されているのはナミテントウ。体長1cm弱のテントウムシで飛びません。

 

野生のテントウムシはよく飛ぶため、せっかく畑に放っても飛んでいってしまいます。生物農薬として働いてもらうためには畑に居ついてもらわなくてはなりません。そのため飛ばないことが重要なのです。

 

飛ばないテントウムシの開発の裏側に潜入!

農業・食品産業技術総合研究機構、近畿中国四国農業研究センターの世古智一(せこともかず)主任研究員が飛ばないテントウムシの生みの親です。

 

飛ばないテントウムシを作るために使用したのが竹とんぼのような道具。これにテントウムシを貼りつけテントウムシが飛ぶ距離を測定。世古さんがまず行ったのは野生のテントウムシの中から飛ばない個体を探すことでした。

 

計測していくと1時間あたり平均で900m飛ぶ中で、100mしか飛ばない個体が1割いました。集団をオスとメスに振り分け、飛ぶ距離の短い30%を選抜し、これらを掛け合わせました。

 

さらに、生まれた子供でも飛ぶ距離の短い個体を選び交配させるという選抜と交配を繰り返していきました。交配を繰り返し世代を重ねていくうちに飛ぶ距離は徐々に低下。30世代目でついに飛ばないテントウムシが誕生したのです。

 

畑に放してみると飛ぶテントウムシは翌日にはほとんどいなくなったのに対し、飛ばないテントウムシは1週間後でも4割の個体を確認できました。飛ばないテントウムシの多くが畑に定着していると考えられます。

 

商品化の段階で出た問題

飛ぶ距離の短い個体を選抜して交配させるという作業を繰り返し、ついに誕生した飛ばないテントウムシ。後は商品化に向けて系統を維持するだけでしたが、ここで不思議な現象が起こりました。選抜を中止すると、世代を重ねるにつれて飛ぶ距離が回復するようになったのです。

 

これは飛べる距離を計測するさいに、本来は飛べる個体が何らかの理由で飛ばなかったため誤って選抜されたことが原因と考えられます。その結果、飛べるはずの個体が生存力や繁殖力で優位に立ち集団の飛ぶ力が回復していったと考えられます。

 

そこで世古さんが考えたのは、テントウムシの習性を利用して簡単に選抜する方法でした。

 

まず容器の中にフラスコを入れ、その中にテントウムシを入れます。最後に足場となる割り箸を入れると完成。テントウムシは上へのぼっていき、割り箸の先端から飛ぼうとします。そこで飛べる個体はそのまま飛び、飛べない個体は下に落ちます。24時間放置して飛べなかった個体を回収するという方法でより簡単な選抜を行ったのです。

 

RNA干渉による飛ばないテントウムシ

生命農学研究科の新美輝幸(にいみてるゆき)助教は、RNA干渉を使って飛ばないテントウムシの研究を行っています。

 

まずRNAと呼ばれる物質は人工的に合成し、テントウムシの幼虫に注射。10日ほどしてサナギから出てきたのは羽のないテントウムシです。

 

昆虫が羽を作る時には、まずDNAからメッセンジャーRNAと呼ばれる分子に遺伝情報がコピーされます。このメッセンジャーRNAをもとにタンパク質などが作られ羽が成長します。そこでメッセンジャーRNAの働きを止めれば羽が成長せず飛ばないはずだと言うのです。

 

メッセンジャーRNAは似た配列である2本鎖RNAを外から入れると、それとくっついて壊れてしまいます。これがRNA干渉遺伝子の働きを止めるのです。

 

ところが、この羽のないテントウムシを実用化するにはある壁がありました。実はテントウムシの硬い羽は外敵から身を守る鎧の役目を果たしています。つまり、羽がないと身を守れなくなってしまうのです。

 

そこで羽があっても飛ばないテントウムシを作るために、現在は羽ばたく力に関係した遺伝子を制御する研究を行っています。

 

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