吸血鬼を発見!?伝説の源流に迫る|幻解!超常ファイル

NHK総合テレビの「幻解!超常ファイル ダークサイド・ミステリー」で吸血鬼を発見!?伝説の源流に迫るが放送されました。近年、発見が相次ぐ胸に杭が打ち込まれた死体。果たして吸血鬼は実在したのでしょうか?

 

東ヨーロッパのブルガリアにはクケリという魔除けの行事があります。この地で最近、古の悪霊伝説が姿を現しました。それは2012年6月、黒海沿岸の港町ソゾポルで発掘されました。教会の跡地から見つかった14世紀頃の人の骨。その胸には杭のように突き刺さった鉄の塊がありました。遺体はブルガリア国立歴史博物館に保管されています。遺体は男性で身長は約170cm。年齢は50~60代で身分は貴族だと考えられています。胸に刺さった鉄の塊は農作業で使う鍬の可能性が高いといいます。これらの状況から、この貴族を憎んだ農民たちが悪人の貴族が吸血鬼となって甦るのを恐れたのではないかと考えられています。古代ブルガリアでは死後の世界は天国しかないと考えられ、善人の魂は天国に、悪人の魂はこの世に留まると考えられていました。人々はこの貴族をよほど悪人と考えており、死後に魂が残って吸血鬼にならないようこのような処置を行ったのでしょう。

 

ブルガリア科学アカデミーのラチェコ・ポポフ博士によると、このような吸血鬼封じはブルガリアでは近年まで行われていたそうです。1975年、ラチェコ・ポポフ博士はプロの吸血鬼ハンターに会ったと言います。彼は真夜中、裸にハーブのオイルを塗りたくり吸血鬼になったと思われる人物の墓に行き土の上から鉄の杭を刺したと語っていたそうです。

 

死者が甦り吸血鬼になるというのは東ヨーロッパ各地で古くからの民間伝承として語り継がれています。セルビアでは吸血鬼は狼や馬、猫など動物の姿に変身し人の目を欺き、マケドニアでは両目のつまった牛皮の袋が闇の中で光り、ボスニアでは鞴の形をし火を吹きながら人を襲うと言います。いずれも悪人や罪人が死んだ場合、しきたりとは違う方法で葬られた場合など、神に背き魂が天国に行けないものが吸血鬼になるそうです。魂が救われず神に見放された肉体に悪霊が入り込むことで甦り、人を襲って活力の源である血液を奪い続けるのです。

 

ブルガリア南部ロドピ地方は昔ながらの文化が色濃く残っています。1000mの山々が連なるこの地域では農作物は限られ、冬は深い雪で閉ざされます。暮らしには厳しい環境です。この地では「ドラクス」という古から根付いてきた吸血鬼伝説がとても身近に語られています。「ドラクスにお金をあげるから娘の血を売ってくださいと言われた」「台所の物を全部ひっくり返された」「トウモロコシが倒された」などドラクスは内気ないたずらっ子のように語られています。夜、墓場で甦った死者はドラクスとなり、自分が生前暮らしていた家に向かいます。愛する家族の血を指先からチューチュー吸うのだそう。また物を散らかして騒音を立て、ぶどう酒の樽をぶちまけガブ飲み、本場のヨーグルトを盗み食いします。時にはお客に振舞うためのチーズパイを作る道具を持ってくるという気遣いも。どうやらドラクスは悪戯が目的ではなく自分が帰ってきたことを家族に気づいてもらいたくて騒ぎを起こすのだと言われています。とはいえ、死者の魂がさまよい悪霊が宿るドラクスを見過ごすわけにはいきません。そこで使われるのが鉄。火で鍛えられた鉄は太陽の象徴とされ魔除けに効果的と考えられました。死者がドラクスになる恐れがあっても鉄の杭を刺したりはしません。鉄の道具を足元にそっと置くだけです。こうして悪霊が近づかないようにし、彷徨う魂が天国へ行けるよう願うのです。もし運悪く死者がドラクスになってしまった場合はパンを使います。パンを千切って少しずつ道に落とし、ドラクスをおびき寄せ森の奥に返すのです。スモーリャン地方歴史博物館のターニャ・マレバ館長によると、こうしたドラクスに対する儀式やしきたりには死者を大事にしようとする敬意がこめられているため、これからもなくなることはないそうです。ロドピ地方のドラクスの伝承には一般的に考えられるような人を襲って殺したり血を吸ったりする邪悪なイメージがほとんどありません。ドラクスは黒猫や犬、馬、ロバといった動物の姿や、姿形がない声だけ、そよ風のようになったりします。知らぬ間に私たちに寄り添うように近くにいるのです。

 

「悪魔の喉」は死者の国に繋がると言われている洞窟です。ロドピ地方の人々にとって聖地であるこの洞窟には、ギリシャ神話の物語が伝えられています。毒蛇に噛まれて急死した妻エウリュディケを連れ戻そうと、洞窟の奥へ向かう夫オルフェウスの物語です。しかし、愛する者を死から取り戻そうとする試みは失敗に終わります。日本神話に描かれる黄泉の国を思わせる物語です。死の世界から愛する者を取り戻したいという全ての人間に共通する願いが込められているのです。実際ロドピ地方に暮らす人々にとって死はまさに身近なものとして存在していました。厳しい自然環境の中、寒さや飢え、伝染病が襲い次々と人が倒れていったからです。またロドピ地方は歴史的に東からの異民族の侵入を度々受けた地域でもあります。相次ぐ戦乱に村人は巻き込まれ続けました。死は突然、理不尽に訪れます。それを受け入れるしかない人々は甦りを願ったのです。愛する人を突然失う悲しさ、例えドラクスになっても戻って欲しいという願い、そのような思いがロドピ地方では民謡として今に伝わっています。

「キナは死んでしまいました あの大きい村で 私の夫はもう再婚したかしら? きれいなお嫁さんは見つかったかしら? 君の夫はもう再婚したよ あなたほど愛してはいないだろうけど~」
若くして病死したキナという母親が墓の中から家族のことを心配し親戚に問いかける歌です。最後に母親は墓から甦り寂しがっていた幼いわが子を抱きしめ民謡は終わります。

 

しかし、こうした土地に根付いた死生観はキリスト教によって変化していきました。死者が甦るのは神の手により行われるべきもの、それ以外のよみがえりは悪魔による邪悪なものという考えが広まっていったのです。さらに14世紀、ヨーロッパでペストが大流行。2000万人以上を死に至らしめた伝染病が災いをもたらす悪魔と甦る死者に対する恐怖を強めていきました。やがて19世紀の終わり、イギリスの小説家ブラム・ストーカーが東ヨーロッパの吸血鬼伝承をもとにした「吸血鬼ドラキュラ」を出版。西ヨーロッパの視点から吸血鬼を邪悪な不死身の怪物と強調しました。弱点は十字架、杭を打たれると滅びるという吸血鬼のイメージが定着していったのです。